研究概要 |
「研究の出発点」一般均衡理論における企業分析において産出投入分析・販売購入計画・在庫計画と予算制約式を導入した森嶋(「動学的経済理論」)モデルの発展的現代化を図る。我々の研究によって、家計も企業もいずれの「計画期間」においても収支条件の制約下にあるものとして効用、あるいは、利潤の現在価値の流れの総和を最大化するものと想定すれば、価格経済の効率性命題は妥当しなくなるので、命題の妥当性を保証するメカニズムを検証する必要がある。このような視点を出発点として以下に述べるような共同研究を展開してきた。 [研究の展開](1)多期間を基礎とし、家計分析にも、産出投入・販売購入・在庫を基礎とした構造を導入し、株式の売買(新株の発行をも含めて)と貨幣および貨借を考慮に入れた基礎的モデルの拡張に着手し、経済効率性命題と均衡解の存在証明についてほぼ目途がついた。(2)財政学的にも、従来の課税理論の枠組みでは「企業は利潤を獲得しそれを分配する単なる機能にすぎない」扱いがなされていたが、企業の予算制約を考慮することによって、企業の資産内容が明示的に取り扱えるようになった。また、最適商品課税論を再構成する方向での検討にも着手した。 [研究成果の発表](1)論文K.Kuga,“Budget Constraint of a Firm and Economic Theory,“ISER Discussion Paoper,No.314,1994が国際的理論経済学術誌Economic Theoryによる審査の後、現在ゲラが校正済みの段階で1996年夏に掲載(forthcoming)される予定である。(2)神戸大学経済経営学会講演会(1996年1月)にて久我が「企業の予算制約式と経済理論」なる演題名にて研究発表を行い、共同研究者の入谷が質疑の応答に参加した。(3)理論構想の原案者である森嶋通夫ロンドン大学名誉教授と研究成果の報告と意見交換を開始し、「久我の定理2は期末ストックをパレト最適の評価に組み込むことによって長期状態に関する仮定を弱めることができる」との指摘を受けた。 [残された課題](1)不確実性と企業に関するRadner(1972)にはじまるincomplete market下でのsequential market modelにおける合理的期待均衡理論と、我々が基礎を置くHichs-Morishima流の一時的一般均衡理論とでは本質的な構造的な相違が存在する。それらを明確な形で検討するframework作りを共同研究者の間で開始した。(2)現在のファイナンス理論と我々の企業理論との関係を明確にすること、いわゆるMM理論との対応である。企業に法的所有権を認め、資産市場における企業のBudgetを明確にするという我々の手法が、この問題に関する有効な解決策となる可能性がきわめて高い。
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