研究概要 |
現在の一般均衡理論における企業は,生産集合の制約下利潤最大化行動をとる主体として描写されているにとどまり、予算制約式を捨象している。本研究の目的は,企業に予算制約式を導入することによって一般均衡理論をより現実的なものにすると同時に,そのことによって価格経済社会像を支援する一般均衡理論の結論がどのような変化を受けるかということを明らかにすることである。また,現在の一般均衡理論が家計分析において単一の経済主体で構成されているものと想定していて,家族による家計運営を行うという側面を捨象していることに鑑み,企業に収支制約を導入する一方,家計に家族概念を導入して一般均衡理論を再構築することが急務であった。平成7年度は,関連分野の文献のうち,不確実性下の企業行動について,temporary equilibrium理論関係,sequential marketおよびincomplete market理論関係,についてのほとんどの資料の整備が終了し,基礎的な理論への討論を中心として,各分野のこれまでの標準的な成果との比較を行い,この作業は予定通り終了した。平成8年度は,このような方向での一般均衡モデルを統合拡張すること,応用的(財政論,貨幣論)な分野への適用と現在のファイナンス理論と我々の企業理論との関係を明確にする研究をおこないほぼ予定通り達成した。一般均衡理論における企業分析において産出投入分析・販売購入計画・在庫計画と予算制約式を導入分析した森嶋(『動学的経済理論』)モデルの発展的現代化を図るとともに,家計分析にも同様の分析構造を導入し,また株式の売買(新株の発行をも含めて)が行われたあとの利潤分配構造の変化を表現できないあり方を包摂するようなモデルの開発に着手した。現在,そのような研究方向と税制との関わり・最適商品課税論・企業課税推論の新たな展開や,いわゆるMM理論との対応,不確実性と企業に関するincomplete market下でのsequential market modelにおける合理的期待均衡理論と一時的一般均衡理論との異なるアプローチ間の溝を埋めるという問題が残されている。企業に法的所有権を認め,資産市場における企業のBudgetを明確にするという我々の手法がこの問題に関する解決策となる可能性はきわめて高い。均衡分析という枠組みとはアプローチを異にするが,企業の予算制約式の不均衡動学モデルへの適用も重要な問題と考えられ,この方向への応用については現在模索中である。平成7年度と8年度の研究成果と平成9年度の研究予定内容を含めて,現在,研究成果公開促進費の申請に応募し,これら成果を公開する準備を進めている。
|