研究課題
本研究は二カ年にわたる計画で進められた。平成8年度は平成7年度の研究発表会の成果を踏まえ、以下の論点で相互の活発な議論が個別になされ、研究報告書掲載の諸発表を得た。研究は、大きくは(1)具体的個別的で多様な「建築的場所」に各研究者がそれぞれ論及して行くところから自ずと浮かび上がってくる「建築的場所」像をその広がりにおいて提示するものと、(2)これら「建築的場所」像の多様な展開を、従来の建築思想の流れや隣接する諸学問領域とのかかわりを射程に入れた上で、建築的「場所」の概念の基礎的な枠組みや研究方法を論及した基礎理論を提示するものとに分けられるが、(1)と(2)の研究が相互に支え合うものとして各研究者間で自覚され、報告がまとめられた点に特色を有する。(1)の個別的具体的研究の広がりは、西洋近世建築理論(松本)、西洋近代建築理論(白井)、西洋近代建築(内丸)、西洋近代教育思想(奥)、西洋現代建築理論(河内)、西洋現代建築(前田)、北ユーラシア民家(垂井)、朝鮮民家(西垣)、日本中世思想(西垣)、日本近世教育施設(島岡)等、多様にわたる報告がもたらされた。各報告においては、それぞれの建築的現象の意味発生の核心に「場所」概念が位置し、重層する「場所」概念の豊かさが確認された。(2)の基礎理論の研究では、建築論における空間論から場所論への展開(前川)、「場所」概念の多様性についての哲学等隣接学問領域での展開の概観(前川)、総括としての建築的「場所」概念の基礎理論(加藤)等の基礎的報告がもたらされた。(1)と(2)研究は、人間存在のあり方と建築的現象のあり方とに共通する地盤の核心に「場所」概念があることを互いに確認した。この確認が(1)の各研究者の多様な論考にひとつの共有の方向を与えた。報告書掲載の諸発表の多様な建築的場所論は、この方向での展開の可能性の成果である。
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