シロアリと共生原生動物による木材分解の分子生物学的解析

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07306017
• 研究種目: 総合研究(A)
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 東 順一 京都大学, 農学部, 教授 (80115782)
• 研究分担者: 山岡 郁雄 山口大学, 理学部, 教授 (30034705) ; 松本 忠夫 東京大学, 教養学部, 教授 (90106609) ; 阿部 琢也 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (00045030) ; 吉村 剛 京都大学, 木質科学研究所, 助手 (40230809) ; 酒井 裕 京都大学, 農学部, 助教授 (60089117)
• キーワード: シロアリ / 共生原生動物 / 木材分解 / 分子生物学

研究概要

シロアリと腸内原生動物による木材構成成分の分解機構については両者の関係が共生の一つのモデルとされており興味深いが、それにかかわる酵素レベルの研究が遅れていることと原生動物役割の解析が進んでいないため、その生化学的実態に不明な点が多い。そこで、三年にわたる本研究課題のなかで初年度である今年度の研究では、シロアリ及び原生動物の生産するセルラーゼを含む多糖分解酵素及びリグニンの分解に関する酵素の研究、セルラーゼの分泌機構とその作用の場の研究解析、空中窒素固定のしくみ及びPCR法によるシロアリの進化の解析を行った。得られた成果の概要は以下のとおりである。
1)イエシロアリが分泌する唾液腺セルラーゼ及びβ-グルコシダーゼ並びに原生動物の生産するセロビオヒドロラーゼの単離・精製を行い、そのアミノ酸を分析した。また、その配列と対応する核酸の塩基配列の解析を試みている。さらに、ヤマトシロアリについても同様の実験を継続中である。
2)シロアリ及び原生動物の生産するセルラーゼのクローニングのモデルとして有用な同じ真核性の古草菌の遺伝子のクローニングに成功し、次年度以降における昆虫及び原生動物DNAのクローニングの基礎が確率された。
3)イエシロアリの三種の共生原生動物はいずれもリグニンを取り込んでいたが、その程度は中型の原生動物が最も高いことが明らかになり、原生動物の役割分担が示唆されるとともにその分解酵素の解明の手がかりが得られた。
4)シロアリの食べ物である木材にC源が多くN源が少ないところから、C/Nバランスの保持の機構を分析した結果、腸内に空中窒素固定細菌が生息し、特に腸内共生小型原生動物とさらに共生していることが明らかになった。また、生態学的に窒素固定の有意義性を明らかにした。
5)シロアリの系統進化をPCR法にて解析を試み、その有効性とカマキリがシロアリと近いことが明らかになった。
6)電子顕微鏡観察により、ヤマトシロアリとタカサゴシロアリの唾液腺は四種類の細胞からなり、それぞれは分泌顆粒の微細構造上微妙な相違があることがわかった。また、分泌物の解析からそのそれぞれの主細胞を推定することができた。

研究成果

• [文献書誌] Yoshimura, J.: "Cellulose metabolism of the symbiotic protozoa in termite, Coptotermes formosanus Shiraki (Isoptera : Rhinotermitidae) V. Effect of crystallinity of cellulose" Mokuzai Gakkaishi. 41. 206-210 (1995)
• [文献書誌] Miura, T.: "Worker polymorphism and division of labor in the foreging behavior ofthe black marching termite Hospitalitermes medioflavus, on Borneo Island" Naturwissenschaften. 82. 746-750 (1995)
• [文献書誌] Nishino, T.: "Elastic modulus of the crystalline regions of cellulose triesters" J. Polym. Sci. : Part B. 33. 611-168 (1995)
• [文献書誌] Yoshisue, H.: "Cloning and characterization of a Bicillus thruningiensis homolog of the spoIIID gene from Bacillus subtilis" Gene. 154. 23-29 (1995)
• [文献書誌] Yshisue, H.: "Expressionf of teh genes for insecticidal crystal proteins in Bacillus thuringiensis : cryIVA, not cryIVB, is transcribed by RNA polymerase containing σ^H and that containing σ^E." FEMS Microbio. Lett.127. 65-72 (1995)
• [文献書誌] Abe, T.: "Feeding activities and intra and inbtersspecific interactions of fungus growing termite, Macrotermes michaelseni in the grassland of Kenya" Structure and function of soil communities (ed C. Edward etc.) Kyoto Univ. Press, 152 (1995)