研究課題
平成8年度末から平成9年度は、全国の乳腺専門医(外科)を対象にして、乳がん患者の心理社会的支援に関する郵送自記式アンケート調査を行い、結果を分析した。アンケートでは、(1)外科医が乳がん患者の心理社会的諸問題のどこまでを自らが対応するべき範囲と認識しているか、(2)外科医が、精神科医、心理専門家、患者会、患者ボランティアをどの程度利用し、どう評価しているか、の2点を明らかにすることを目的とした。アンケート郵送数は419名、有効回答数は258名より得られた(有効回答率61.6%)。1)外科医が中心となって対応すべきと考えられていた問題は、医療行為、再発や死の不安、日常の身体管理であり(64.2〜98.3%)、対人関係、経済的問題、ボディー・イメージや性生活の問題は外科医の責任領域とあまり考えられてはいなかった(30.2〜37.6%)。2)61.6%の外科医が患者の精神面への対応で苦慮した経験をもつが、精神科などへ紹介歴があるのは46.1%であり、その大部分(92.3%)で過去1年間の紹介患者数は3人以下にとどまった。しかし、紹介歴のある外科医の8割以上は、精神科医などの介入を肯定的に評価していた。3)97.3%の外科医が乳がん患者会を知っていたが、患者を紹介したことがあるのは28.1%のみであった。乳がん経験者による患者訪問ボランティア活動を受け入れているのは全体の14.0%のみで、経験者ならではの情報提供や精神的支援が期待されながらも、ボランティアの助言の信憑性や事前のトレーニング内容への疑問も出された。限られた診療時間内では、外科主治医が自らの守備範囲と考えない問題は対応が手薄になりがちである。精神医学や心理専門家、患者会、患者ボランティアなど、種々の支援源が関わり、それぞれの特色を生かした多角的な対応が望ましい。今後はがん診療における多業種連携を円滑にするための具体的方策に関する研究も必要であろう。今年度は最終年度であるため、これまでの研究の総括を行い最終報告書をまとめた。
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