本研究の目的は、科学技術がもたらす効用と、その隠れた側面であるリスクに対して、人々がどのような認識をしているのか、その受容に関する感情一認知構造を明らかにするところにある。この感情一認知構造は、科学技術の種類によって異なるが、同時に社会や文化によっても異なると考えられる。そこで本研究では、日本、中国、米国という異なる文化を持つ国を対象として、比較文化的な研究を行うことにした。 本年度は、過去3年間に行ってきた研究の取り纏めを行った。すなわち、レントゲン撮影、原子力発電、タバコ、麻薬といった科学技術や嗜好品に対して、市民がどのような効用性と危険性を感じているのか、両者のトレード・オフの結果として、これらの科学技術や嗜好品をどの程度受容しているのか、またその際に、科学知識や価値観や社会的態度がどのような形で入り込むのか、その全体的な感情一認知構造を分析した。ことにタバコに関しては、後述のように、国によって異なる文化規範や法的規制の実状をふまえて、詳細な分析を行った。 以上に述べた科学技術の効用とリスクについての感情一認知構造が、異なる国の異なる文化によってどのように変化するかを、日本、中国、アメリカの3カ国比較を通じて明らかにした。そしてこれらのデータをもとに、科学技術や嗜好品に対する感情一認知構造のモデルを提示した。そしてこのモデルは、理論面のみでなく、現実社会における応用面にも有効であると考える。
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