空間表現の文法化に関する総合的研究

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07401016
• 研究機関: 筑波大学
• 研究代表者: 竹沢 幸一 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (40206967)
• 研究分担者: 三谷 惠子 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (10229726) ; 矢澤 真人 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (30182314) ; 廣瀬 幸生 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (00181214) ; 砂川 有里子 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (40179289) ; 青木 三郎 筑波大学, 文芸・言語学系, 助教授 (50184031)
• キーワード: 空間表現 / 格助詞 / 前置詞 / 動詞 / 所有 / 存在 / 叙述 / 認知文法 / 統語論 / メタファー

研究概要

本研究では、人間の空間認識がどのように言語化/文法化されるのかについて総合的な研究を行った。本研究の具体的な成果は以下の通りである。
1 日本語、英語、フランス語、中国語、韓国語、ロシア語といった言語における空間表現の記述を、これまでの先行研究に基づいて新たなデータも数多く加えながら行った。個別言語ごとに見られる空間表現の特徴は各研究分担者の論文の中にまとめられている。その中でも特に日本語に関しては、 「に/で」、 「に/へ/へと」、「に/から/によって」等の違いについてこれまでの研究にはないかなり詳しい記述が提示されている。
2 空間表現に対して統語的、語彙的、認知意味論的な観点からの理論化を試みた。統語的には従来の研究に見られる項としてではなく述部としての空間表現の特徴付け、語彙的には空間を表示する格助詞/前置詞が動詞の持つ情報からどの程度予測可能なのかに対する意味役割およびアスペクト基準の設定、認知意味論的には物理的空間関係ではなく視点という認知的な空間把握が個別言語における空間表現の文法化に与える影響の明確化、といった点に関して理論的な提案を行った。
3 さらに空間表現の拡張用法/メタファーとしていくつかの関連現象を分析した。具体的には、時間表現との関係、所有/存在の関係、受動文の動作主表示、状態性アスペクトとの関係等、これまでの研究では体系的分析が行われてこなかった問題に対して新たな分析を提示した。
本科研およびこれまでの共同研究の成果を基に「言語研究における分類」というテーマで次の共同研究を計画中である。空間表現は人間の認知能力と言語能力の最も重要な接点であるが、こうした問題をより深く分析するためには、人間が何かを区別/分類するために言語がどのような働きをしているのかについて、言語学だけではなく学際的な観点からの考察が必要である。

研究成果

• [文献書誌] 青木 三郎: "「取り立てと主題-日仏語の対照言語学的研究」くろしお出版所収" 『日本語の主題と取り立て』益岡隆志,野田尚史,沼田善子編. 277-298 (1995)
• [文献書誌] 青木 三郎: "「語彙と文法についての一考察-「(て)しまう」のアスペクトとモダリティ」" 『つくば言語文化フォーラム研究報告書』(研究者代表:北原保雄). 32-43 (1996)
• [文献書誌] 青木 三郎: "「限定副詞seulementについて」" 『フランス語学研究』日本フランス語学会. 第30号. 77-78 (1996)
• [文献書誌] 青木 三郎: "「東アジア言語研究の必要性」" 『東西言語文化の類型論特別プロジェクト研究報告書』II. 245-248 (1997)
• [文献書誌] 青木 三郎: "「言語研究のダイナミクス」" 『東西言語文化の類型論特別プロジェクト研究報告書』II. 249-264 (1997)
• [文献書誌] 青木 三郎: "「現代フランス語の単純未来形の「多変性」について」" 『文藝言語研究 言語篇』. 第34号. 115-133 (1998)
• [文献書誌] 青木 三郎: "「文法用語と語学教育(フランス語を中心に)」" 『専用用語研究』. 16. 15-17 (1998)
• [文献書誌] 安 平鎬: "「自動詞文における格の代換について-「発生」と「移動変化」をめぐって、「あふれる」を中心に-」" 『日本語と日本文学』筑波大学国語国文学会. 23号. 13-22 (1996)
• [文献書誌] 安 平鎬: "「発生構文と語順-日韓対照を中心に-」" 『筑波大学「東西言語文化の類型論」特別プロジェクト研究報告書』平成9年度I. 131-140 (1997)
• [文献書誌] 安 平鎬: "「韓国語における「移動動詞」をめぐって-「oluta(〓〓〓)」と「(〓〓〓〓)」を中心に-」" 『文藝言語研究』言語編 筑波大学文芸・言語学系. 33号. 95-111 (1998)
• [文献書誌] 安 平鎬: "「韓国語のいわゆる擬似受動文をめぐって」" 『筑波大学「東西言語文化の類型論」特別プロジェクト研究報告書』平成10年度. 予定
• [文献書誌] 佐々木 勲人: "「方向性と影響性-中国語受動文の成立条件をめぐって-」" 『文法と言語理論』文部省科学研究費補助金・筑波大学学内プロジェクト研究成果報告書. 21-32 (1996)
• [文献書誌] 佐々木 勲人: "「中国語における使役と受動の曖昧性」" 『ヴォイスに関する比較言語学的研究』三修社. 133-160 (1997)
• [文献書誌] 佐々木 勲人: "「“瓜…公"と“委…公"-強調の“公"再考-」" 『中国語学』日本中国語学会. 243号. 65-74 (1996)
• [文献書誌] 佐々木 勲人-共著: "「打撃・接触動詞の動能交替と結果の含意」" 『筑波大学東西言語文化の類型論特別プロジェクト研究報告書』平成9年度I. 173-191 (1998)
• [文献書誌] 佐々木 勲人-共著(筆頭): "「中国青海省西寧方言の受益表現」" 『筑波大学東西言語文化の類型論特別プロジェクト研究報告書』平成9年度I. 305-316 (1998)
• [文献書誌] 佐々木 勲人: "「中国語の間接受動文」" 『言語の普遍性と個別性に関する記述的・理論的総合研究』文部省科学研究費補助金・基盤研究(B)(2)研究成果報告書. 141-152 (1998)
• [文献書誌] 佐々木 勲人: "「中国南方方言のGIVE処置文」" 『レキシコンに関する総合的研究』文部省科学研究費補助金基盤研究(A)研究成果報告書. 予定
• [文献書誌] 佐々木 勲人-共著(筆頭): "「中国青海省西寧方言の使役表現」" 『筑波大学東西言語文化の類型論特別プロジェクト研究報告書』平成10年度. (予定).
• [文献書誌] 佐々木 勲人: "「中国語における授与動詞の文法化」" 『空間表現の文法化に関する総合的研究』文部省科学研究費補助金基盤研究(A)(2)研究成果報告書. (予定).
• [文献書誌] 小林 典子: "「相対自他動詞による結果・状態の表現 -日本語学習者の習得状況-」" 『文藝言語研究・言語篇』筑波大学文芸言語学系. 29号. 41-56 (1996)
• [文献書誌] 小林 典子: "「初級文法項目と動詞の意志性について」" 『筑波大学留学生センター日本語教育論集』. 14号(予定).
• [文献書誌] 竹沢 幸一: "「空間表現の統語論-叙述の観点から-」" 『空間表現の文法化に関する総合的研究』平成7-10年度文部省科学研究費研究成果報告書. (予定).
• [文献書誌] 竹沢 幸一: "「不定詞節を伴う認識動詞構文の統語構造と派生」" 『筑波大学東西言語文化の類型論特別プロジェクト平成10年度研究報告書』. (予定).
• [文献書誌] 竹沢 幸一: "Syntactic Structures and Derivations of Epistemic Verb Constructions with an Infinitival Complement" 『日韓中英の比較統語論に基づく普遍文法構築のこころみ』平成7-10年度文部省科学研究費国際学術研究研究成果報告書九州大学. 予定
• [文献書誌] 砂川有里子-共著: "「留学生と日本人学生の共同授業実践報告-異文化間コミュニケーションにおける摩擦や誤解の回避を目指して-」(1998印刷中)" 『第11回日本語教育連絡会議報告:発表論文集』. 予定
• [文献書誌] 砂川有里子: "「辞書で引けない言葉の辞典-日本語文型辞典の開発にむけて-」" 『日本語教育論文集-小出詞子先生退職記念-』日本語教育論文集編集委員会編.凡人社. 435-447 (1997)
• [文献書誌] 砂川有里子: "「日本語文型辞典の試みと可能性」" 『第9回日本語教育連絡会議報告:発表論文集』. 36-41 (1996)
• [文献書誌] 砂川有里子: "「日本語コピュラ文の類型と機能-記述文と同定文」" 『言語探求の領域』上田功他編 大学書林. 261-273 (1996)
• [文献書誌] 廣瀬 幸生: "「語彙意味論の展開」" 『英語青年』. 第140巻第10号. 531 (1995)
• [文献書誌] Hirose,Yukio.: "Direct and Indirect Speech as Quotations of Public and Private Expression." Lingua. 95. 223-238 (1995)
• [文献書誌] 廣瀬 幸生: "「関係詞節」" 『英文法への誘い』. 231-246 (1995)
• [文献書誌] 廣瀬 幸生: "「程度からモダリティへ-英語におけるメタ比較構文の意味論-」" 『つくば言語文化フォーラム研究報告書-述語機能の研究-』. 19-31 (1996)
• [文献書誌] 廣瀬 幸生: "「日英語再帰代名詞の再帰的用法について」" 『言語』. 第25巻第7号. 81-92 (1996)
• [文献書誌] Hirose,Yukio: "Bound Pronouns as N-Bar Proforms." Lingua. 102. 169-186 (1997)
• [文献書誌] Hirose,Yukio: "Direct and indirect speech as seen from levels of linguistic expression: A contrastive analysis of Japanese and English." 『東西言語文化の類型論特別プロジェクト研究報告書』. 491-503 (1998)
• [文献書誌] 廣瀬 幸生: "「構文間の継承関係-because節主語構文の構文文法的分析-」" 『英語青年』. 第144巻第9号. 511-514 (1998)
• [文献書誌] 廣瀬 幸生: "「視点と知覚空間の相対化」" 『空間表現の文法化に関する総合的研究』平成10年度文部省科学研究費研究成果報告書. 予定
• [文献書誌] 廣瀬 幸生: "「文法の基本単位としての構文-構文文法の考え方-」" 『東西言語文化の類型論特別プロジェクト平成10年度研究報告書』. 予定
• [文献書誌] 三谷 惠子: "「再解釈、顕在化、多重解釈-ロシア語の2.3.4.と総合パタン-の変化について-」" 『文芸言語研究言語篇』筑波大学文芸・言語学系. 33号. 1-29 (1998)
• [文献書誌] 三谷 惠子: "「クロアチア語の現状」" 『分離と統合の挾間に立つスラヴの言語・民族問題』創価大学スラヴ東欧研究センター資料集. 5. 9-13 (1998)
• [文献書誌] 矢澤真人・橋本修: "「近代語の語法の変化-『坊ちゃん』の表現を題材に-」" 『日本語学』明治書院. 17-5. 13-21 (1998)
• [文献書誌] 矢澤真人: "「「へ」格と場所「に」格-明治期の「へ」格の使用頻度を中心に-」" 『文芸言語研究言語篇』筑波大学文芸・言語学系. 34. 135-155 (1998)
• [文献書誌] 矢澤真人: "「発生構文と位置変化構文」" 『筑波日本語研究』筑波大学日本語研究室. 2号. 1-13 (1997)
• [文献書誌] 竹沢幸一、John B.Whitman: "『格と語順と統語構造』日英語比較選書第9巻" 研究社, 213 (1998)
• [文献書誌] 砂川有里子-共著: "『日本語文型辞典』" くろしお出版, 693 (1998)
• [文献書誌] 廣瀬幸生・加賀信広(共著): "『指示と照応と否定』" 研究社出版, 190 (1997)
• [文献書誌] 三谷 惠子: "『クロアチア語ハンドブック』" 大学書林, (1997)
• [文献書誌] 三谷 惠子: "『クロアチア語常用6,000語』" 大学書林, (1998)