研究概要 |
RuL_3^<2+>およびOsL_3^<2+>錯体(L=bpy,phen)について、水-アルコール、水-ジオキサン混合溶媒中、^3MLCTからの無輻射緩和過程について研究した。Ru(II)錯体では二つの無輻射遷移過程が競合している。無輻射速度の温度依存性から二つの過程(基底状態へ直接緩和する過程(IC過程)と金属中心を経由する過程(MC過程)に対する緩和速度を見積もった。配位子、溶媒および温度によってこれら二つの過程を経由する割合が変化する。一方Os(II)錯体ではIC過程のみによって緩和する。重水素置換の溶媒を用いて、MC過程では同位体効果は見られないが、IC過程では同位体効果が見られることを明らかにした。非常に大きな同位体効果が水溶液中で観測された。水-重水混合溶液中では、無輻射速度は重水のモル分率と比例関係にあるが、水-アルコール、水-ジオキサン中ではアルコール・ジオキサンのモル分率と比例関係が見られない。水-ジオキサン混合溶媒中では、ジオキサンのモル分率を変えても吸収および発光の位置が変化しない状態を作ることができる。この条件下でジオキサンのモル分率により無輻射緩和速度が変化する。これまでRu(II)錯体において、二つの無輻射過程を分けて議論してこなかったために、発光寿命の溶媒効果の解明が混乱していた。本研究でIC過程の溶媒効果および二つの過程で同位体効果が異なることを明らかした。これらの実験結果を矛盾無く説明するために、溶媒への電子移動過程によらない。IC過程の無輻射緩和過程の新しいモデルを提案した。即ち金属錯体の配位子間に包摂された溶媒分子が励起エネルギーを受け、そのエネルギーを錯体近傍に存在する溶媒クラスターに放散するというものである。このモデルにより、錯体の外側にある溶媒クラスターと包摂溶媒分子との相互作用の変化が無輻射遷移速度に影響を与えることが矛盾無く説明できる。
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