研究概要 |
本研究では、環状バナジウム酸化物に1,5-シクロオクタジエン(cod)を有するロジウム(I)が配位したクラスター(TBA)_2[{Rh(cod)}_2(V_4O_<12>)](TBA=テトラブチルアンモニユウム)を新たに合成し、その溶液内動的挙動を多核NMRを用いて詳細に調べた。[{Rh(cod)}_2(V_4O_<12>)]^<2->の^<17>O NMRスペクトルは、1,2-ジクロロエタン中-5℃では、4種類の^<17>O-シグナル(1071,775,553,536ppm)を示し、溶液中この温度では固体構造(Rhフラグメントは二つの酸素原子を介して環状のV_4O_<12>^<4->イオンの上下に配位しいる構造)が保持されている事が分かった。しかしこれらのシグナルは温度上昇に伴い融合(後者二つのシグナル)またはブロード化(前者二つのシグナル)が観測され、動的過程の存在が認められた。この動的過程の詳細な反応動力学的解析により、2つの{Rh(cod)}^+フラグメントが環状バナジウム酸化物の表面上、分子内転移を起こしている機構を明らかにした。 一方硫化物クラスターに関する研究は、M(μ-SH)M基を有する二核[(RhCp^*)_2(μ-CH_2)_2(μ-SH)]^+(Cp^*=η^5-C_5Me_5)に、他の遷移金属イオンを反応させる2+1付加によって、三核錯体[(MCp^*)(RhCp^*)_2(μ_3-C_2H_2)(μ_3-S)](BF_4)_2(M=Ir,Rh)を合成することに成功した。そしてこの三核錯体の2電子還元によって得られた中性の[(MCp^*)(RhCp^*)_2(μ_3-C_2H_2)(μ_3-S)]が溶液中でwindscreen-wiper motionと呼ばれる動的過程を示すことを明らかにした。更に立体化学や酸化数の異なる単核錯体、[Cp^*RhP(OEt)_3Cl_2](Cp^*=η^5-C_5Me_5)、[WO_nS_<4-n>]^<2->(n=0,1)、そしてCuClをビルディングブロックの原料として用い、Rh^<III>,W^<VI>,Cu^Iからなる直線型三核[Cp^*RhP(OEt)_3(μ-WS_4)CuCl](1),バラフライ型三核[Cp^*RhP(OEt)_3(μ-WOS_3)CuCl](2),枝分かれ型八核[{Cp^*RhP(OEt)_3(μ-WS_4)(CuCl)Cu}_2(μ-Cl)_2](3),そして連結不完全キュバン型八核[{Cp^*RhP(OEt)_3(μ-WOS_3)(CuCl)Cu}_2(μ-Cl)_2](4),硫化物クラスターの合成に成功し、それらの構造をX線解析により明らかにした。
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