研究概要 |
従来の均一相触媒は単純ケトン類の水素化に対して活性が低いため、高活性水素化触媒の開拓が切望されていた。本研究者は単独では活性の乏しいルテニウム(II)ミホスフィン錯体に1,2-ジアミンおよび塩基を加えて調製した触媒系が、2-プロパノール溶媒中、種々の単純ケトン類の水素化反応に対して極めて高い活性を示すことを見いだした。例えば、アセトフェノンの水素化では触媒回転数は2,400,000、1時間の触媒回転率は最高228,000を記録した。現在知られている均一相水素化触媒でもっとも高い活性を示した。またこの触媒系が炭素ミ炭素不飽和結合の共存下におけるカルボニル選択的水素化反応にも極めて有効であることを明かにした。例えば、1-アルケン共存下でのアルデヒドの選択的水素化では最高1500倍の速度差が観測された。これまで有機合成化学の懸案であった高いカルボニル選択性と種々の化合物に適用できる一般性を兼ね備えている。さらに種々のアルキル置換環状アルカンおよび鎖状の1-フェニルエチルケトン基質の高ジアステレオ選択的水素化反応を達成した。その選択性は最高99.8%以上に達した。光学活性ホスフィン配位子2,2'-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1'-ビナフチル(BINAP)と種々の光学活性1,2-ジアミンを組合せて用いることにより、立体的環境の異なる多くの芳香族ケトン類および不飽和ケトン類を1-8気圧の水素、室温の温和な条件下で高エナンチオ選択的に水素化することに成功した。不斉収率は最高99%に達した。 本研究者の見いだした単純ケトン類の水素化法は学術的だけではなく実用的観点からも注目されている。白檀様香料の成分として需要の多いトランス-3-イソカンフィルシクロヘキサノールの製造で工業化の検討が行われ、すでに工場での試作段階に達している。
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