植物の環境応答現象は、情報の受容と伝達・様々な遺伝子発現の制御・代謝調節などの複合した生命現象である。従来、原核生物には、外部シグナルに迅速に応答するcAMP-信号伝達系は存在しないと考えられてきた。我々はcAMPの合成酵素であるアデニル酸シクラーゼの遺伝子の単離を試み、形質転換型のラン藻のAnabaena PCC7120において5つの異なったアデニル酸シクラーゼ遺伝子を発見した。遺伝子の構造解析を行った結果、この酵素は動物に含まれるものと高い相同性を示すことが明らかとなった。また、この中にはバクテリアの二成分系信号伝達タンパク質と、その一次構造がよく似ているものがあった。そこで、大腸菌を用いて、このアデニル酸シクラーゼ遺伝子を大量発現させ、得られたタンパク質を用いて酵素分子の活性化機構の解析を行った結果、CyaCはまず、自己リン酸化し、そのリン酸基を分子内で転移すること、リン酸化によってアデニル酸シクラーゼ活性が高くなることが明らかとなった。さらに、Anabaena cylindricaに赤色光および近赤外光を照射し、細胞内のcAMP量を測定した結果、赤色光照射ではcAMPレベルが急激に減少し、近赤外光照射では逆に増加が見られ、このラン藻にはフィトクロムのようなタンパク質を光受容体とする光信号伝達系が存在することが示唆された。また、Synechocystis PCC6803のアデニル酸シクラーゼを破壊した細胞に青色光を照射し、細胞運動の様子を観察し、cAMPは細胞の運動を促進すること、Synochocystisでは青色光が細胞内cAMP濃度の増加を介して細胞の運動を促進すること等を明らかにした。
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