サケの回遊の神経内分泌機構:分子内分泌学的アプローチ

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07404046
• 研究種目: 一般研究(A)
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 浦野 明央 北海道大学, 大学院・理学研究科, 教授 (00142232)
• 研究分担者: 上田 宏 北海道大学, 水産学部, 助教授 (00160177) ; 安東 宏徳 北海道大学, 大学院・理学研究科, 助手 (60221743) ; 伊藤 悦朗 北海道大学, 大学院・理学研究科, 助教授 (80203131)
• キーワード: サケ科魚類 / 回遊 / 遺伝子プログラム / 神経内分泌機構 / 神経ホルモン

研究概要

脳・視床下部で産生される神経ホルモンによるサケの回遊行動の制御機構を遺伝子レベルで理解することを最終的な目標として研究を進め、今年度は、以下の結果を得た。
1)TRH前駆体mRNAの全塩基配列の決定:ヒメマスのTRH-A cDNAのほぼ全体の塩基配列を解読し、前駆体のアミノ酸配列を推定した。前駆体はTRH配列を8個持つが、両生類および哺乳類のものとは相同性が低い。にもかかわらず、親水性領域-疎水性領域の分布パターンはよく保存されている。
2)環境要因による神経ホルモン遺伝子の発現の変動:母川回帰時の雌のシロザケの視床下部では、積極的にバソトシン遺伝子の発現が抑えられていることを示す結果が得られた。この現象は、石狩川と三陸、二系統のサケで観察されただけでなく、実験的にも再現できる普遍的なものであり、神経葉ホルモン遺伝子の発現が雌雄で異なる調節を受けていることが明らかになった。
3)ストレスによるPOMC(proopiomelanocortion)遺伝子の発現の変動:ヒメマスの脳下垂体から取得した2種類のPOMC cDNAおよび神経葉ホルモンのcDNAをプローブとして、フェノキシエタノールがストレスホルモンの遺伝子の転写調節に与える影響を調べた。神経葉ホルモン遺伝子の発現には影響が見られなかったが、POMC遺伝子の転写レベルが急上昇した。
4)神経葉ホルモン遺伝子の構造解析:イソトシン前駆体I(IT-I)遺伝子およびその上流2kb余りの塩基配列、およびバソトシン前駆体IIとイソトシン前駆体II遺伝子の部分配列を解読し、シロザケのイソトシン遺伝子が、円口類・ヌタウナギのバソトシン遺伝子とよく似たエクソン/イントロン構造を持つことを示した。
5)サクラマスsGnRHの構造:サクラマスのGnRH-Iおよび-II遺伝子の塩基配列を解読し、それぞれの上流領域が特徴のあるパリンドローム構造を取り得ることを見いだした。

研究成果

• [文献書誌] Suzuki,M.: "Sequence analysis of vasotocin cDNAs of the lamprey,Lampetra jeponica,and the hagfish,Eptatretus burgeri." Journal of Molecular Endocrinology. 14. 67-77 (1995)
• [文献書誌] Amano,M: "Salmon GnRH synthesis in the preoptic area and the ventral telencephalon is activated during gonadal maturation in female masu salmon." General and Comparative Endocrinology. 99. 13-21 (1995)
• [文献書誌] Amano,M: "Short photoperiod accelerates preptic and ventral Telencephalic salmon GnRH synthesis and precocious maturation in underyearling male masu salmon." General and Comparative Endocrinology. 99. 22-27 (1995)
• [文献書誌] Ashihara,M.: "Presence of two different precursor genes for salmon gonadotropin-releasing hormone in salmonids." Journal of Molecular Endocrinology. 15. 1-9 (1995)
• [文献書誌] Hiraoka,S.: "cDNA for ribosomal protein S2 in sockeye salmon,Orcorhynchus nerka." Comparative Biochemistry and Physiology B. 113(in press). (1996)
• [文献書誌] Okuta,A.: "Two types of cDNAs encoding propiomelanocortin of sockeye salmon,Oncorhynchusnerka." Zoological Science. 13(in press). (1996)