研究概要 |
サケ科魚類の母川回帰の視床下部・下垂体で産生されるホルモンによる制御を、分子レベルで理解することを目的として、今年度は以下のことを明らかにするための研究を行ってきた。 1)GnRH遺伝子の転写調節領域の遺伝子発現における機能:前年度に得られたGnRH遺伝子の配列データの解析から,サクラマスの2種類の遺伝子の間で,上流に存在するcAMP応答配列などの主要な制御配列の並び方に違いがあること,II型の上流が大西洋サケのものと似ていることが明らかになった。 2)回遊行動におけるGnRHの機能的な役割:支笏湖事業所に回帰したヒメマス3-4歳魚に,GnRHアナログ製剤を投与し,湖中央部に再放流したところ,GnRH投与群の雌が有意に早く回帰した。千歳のベニザケへの投与でも雌で成熟促進効果が顕著であった。 3)回遊行動にともなう神経ホルモンおよび下垂体遺伝子の発現の変動:千歳に回帰してきたシロザケ脳内のGnRH遺伝子の発現レベルが,湾内で捕獲したものよりも高かった。一方,降河行動に関わる可能性があるTRHニューロンの脳内分布の解析から,遺伝子の発現レベルに季節変動があることが示唆された。サクラマスの視索前核の3つの領域における、神経葉ホルモン遺伝子の発現には、季節変動が見られた。しかし、mRNA量と免疫染色性の変動にはずれがあった。 下垂体ホルモンについては、母川に溯上した成熟シロザケの下垂体において、ソマトラクチン、プロラクチンおよびPOMC-BのそれぞれをコードするmRNAの量が増加していた。このmRNA量の増加が、淡水適応のための変動なのか、リプロダクションのためのものなのかは、今後の検討が必要である。 4)ヒメマスのCRF前駆体をコードするcDNAを取得し、その塩基配列を解析した。通常はその遺伝子の発現レベルが低いが、ストレスによって発現レベルが高まり、視索前核のバソトシンニューロンが存在する領域に発現ニューロンの存在が検出された。
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