研究概要 |
本能的な行動は遺伝的にプログラムされているという.一方,本能的な行動の発現は,神経内分泌系による神経系と内分泌系の時間調和的な制御に依存している.そこで、サケの回遊を分子レベルで解明するための基礎として,神経内分泌系について,以下のことを明らかにした. 1)視床下部神経ホルモンおよび脳下垂体ホルモン遺伝子の発現の回遊にともなう変動:産卵直前のシロザケ視床下部では、視床下部神経ホルモンの一つであるバソトシンのmRNA量の変動に雄雌差がある.石狩湾から千歳の孵化場までの各地点で採取した試料の解析により,この雌雄で異なる変動の要因は淡水適応ではなく,リプロダクションに関連したものであることを強く示唆する結果が得られた. 2)神経ホルモン産生ニューロンおよび下垂体細胞の活動(遺伝子の発現も含めて)の制御機構:上記の性的二型を示すバソトシンmRNAの変動が,母川回帰時のアンドロゲンおよびエストロゲン血中量の変動と,必ずしも相関していないことが明らかになった.一方,産卵期直前のベニサケへの生殖腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の投与により,下垂体中の生殖腺刺激ホルモンαサブユニットおよびIIβサブユニット,またソマトラクチンをコードするmRNAの量が有意に増加した. 3)神経ホルモンによる回遊行動の制御:支笏湖における,GnRHアナログあるいはステロイドホルモンを投与したヒメマス個体を用いる再回帰実験により,雌雄ともにGnRH投与が対照群より早く産卵場に帰ってくること,さらにGnRHに対する感受性が産卵期の10月より9月により高いことが明らかになった.
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