研究概要 |
4年前に我々はCuGeO_3が無機化合物では初めてのスピン・パイエルス転移を起こす物質であることを発見した.CuGeO_3は有機スピン・パイエルス物質では不可能であった置換効果の研究が可能である点で画期的である.CuGeO_3はCu^<2+>をZn^<2+>で置換するとスピン・パイエルス転移温度が降下する以外に新たに別の相転移が起こることも我々が発見した.この相転移が反強磁性相転移であることは今日ではあらゆる方法で確認されている.この相転移はスピン・パイエルス相という少なくとも純粋のCuGeO_3の場合にはスピン一重項状態から反強磁性相というスピンが古典的に現れる状態への転移であるため,一見不思議な現象であり,その現象を理解することは重要である.我々は中性子回折の実験により,反強磁性相では,dimerizationによる超格子反射と反強磁性長距離秩序による超格子反射が同時に観測され,また反強磁性転移温度までは温度の降下とともに増加してきたdimerizationによる超格子反射強度が転移以下では減少することを確認した.一方以前からZn置換したCuGeO_3では磁化容易軸であるc軸に沿って磁場を印加したときの帯磁率が絶対零度の極限でスピンからの寄与が0に近ずくことを観測していた.これらの現象を併せて考えると,反強磁性相では,スピン・パイエルス相と反強磁性相が相分離して存在するのではなく,二つの秩序変数:スピン・パイエルス状態の秩序変数(dimerizationの振幅に取って良いであろう)と反強磁性相の秩序変数(staggered moment)が試料全体で共存していると結論できる. ところでZn^<2+>の場合は非磁性であり,最も簡単には一次元スピン鎖を分断する効果と理解できる.一方Ni^<2+>を置換した場合には,スピンがS=1であるため,分断ではなくスピンの大きさの変調として理解しなければならないであろう.さらにこの場合には1イオン異方性の効果が期待される.このようにNi^<2+>による置換はZn^<2+>による置換の場合とは違った様々な現象が期待される.我々は実際Cuを一部Niで置換したCuGeO_3の物性を調べ,反強磁性相が生じることを確かめるとともに,磁化容易軸がa軸に平行に近いが,完全に平行ではないこと,このような違いが生ずる原因がどこにあるのか等を明らかにしつつある.
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