希土類元素存在度及びSm-Nd法等の放射壊変を利用した同位体系の研究により、大陸地殻の形成及び進化を明らかにすることが本課題の目的である。主な成果は次の通りである。 1.オーストラリア・ピルバラ地域の始生代チャートの同位体地学的研究を行い、始生代のチャートについての初めてのアイソクロン年代である32億年と25億年を得た。32億年の年代は、このチャートの生成年代を表しているが、25億年の年代は生成後の変成・変質作用の年代を表していることを明らかにした。 2.美濃帯の上麻生礫岩の片麻岩礫・花崗岩礫について、Sm-Nd同位体系・La-Ce同位体系・希土類元素存在度パターンの詳細な検討を行なった。そして、この岩石の原岩の花崗岩の形成年代が約20億年であることを確認するとともに、日本列島の先カンブリア起基盤岩は、LREE-depleted mantleから始生代後半に、大陸地殻の一部として形成されたことを示した。さらに、片麻岩礫中のジルコンについて、日本最古の年代値である32.5億年のU-Pb年代を得た。このデータは、東アジアの大陸地殻形成が始生代中期にさかのぼることを具体的に示した重要な結果である。 3.沈み込み帯における海洋性堆積物の付加過程を考える基礎的データとして、島弧のケイ質堆積物の研究を行った。(1)西南日本外帯及び内帯のチャートは、中生代三畳記の試料は古生代二畳記の試料よりも、大陸地殻物質の影響が大きいことが判明した。この結果は、二畳記から三畳記にかけて堆積場が、大陸地殻により近づいたことを示しており、大陸地殻に付加される堆積物の時代変化を考える必要のあることを示している。(2)西南日本外帯のチャートのSr同位体比は当時の海水の同位体比と近い値であり、open seaでの堆積が示唆される結果が得られた。この結果は従来報告されていた、海水よりも明らかに高いSr同位体比を示す西南日本内帯のチャートのSr同位体比の特徴とは大きく異なっている。古生代後半から中生代前半における、大陸地殻および海洋の分布地域を検討する基本的なデータが得られた。
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