研究概要 |
半サンドイッチ型タングステンクロリドおよびモリブデンクロリドとリチウムチオラートの反応について検討した。例えば,Cp^*WCl_4(Cp^*=C_5Me_5)とチオラートのリチウム塩LiSCMe_3,LiSCH_2CH_2SLiとの反応では容易に炭素-硫黄結合切断が起こり、末端スルフィド結合をもつ錯体Cp^*W(S)_2(SCMe_5),[Cp^*W(S)_5]^-が生成した。一方,Cp^*MoCl_4を用いた同様の反応ではそれぞれチオラート錯体Cp^*Mo(SCMe_3)_3,[Cp^*Mo(SCH_2CH_2S)_2]^-が得られ、炭素-硫黄結合切断は観測されなかった。タングステンの反応では,金属が5価から6価に酸化されているのに対し、モリブデンの場合は4価に還元されている。さらに,チオラート錯体Cp^*Mo(SCMe_3)_3を用い、末端スルフィドをもつ重要なモリブデン(VI)スルフィド錯体を得る新しい合成法を見い出したCp^*Mo(SCMe_3)_3とS_8との反応からはCp^*Mo(S)(O)(SCMe_3)とCp^*Mo(S)_2(SCMe_3)が得られた。S_8は酸化的付加反応によってモリブデンを6価に酸化する。また,Cp^*Mo(SCMe_3)_3に乾燥した酸素を導入すると,Cp^*Mo(O)_2(SCMe_3)を選択的に与える。また,無機セレンとの反応ではCp^*Mo(S)_2(SCMe_3)と2核錯体Cp^*_2Mo_2(E)_2(μ-E)_2(E=S,Se)が単離された。一方,Cp^*Mo(SCMe_3)_3と4倍当量のヒドラジン類(Me_2NNH_2またはPhNHNPh)をTHF中室温で4日間反応させることにより,Cp^*Mo(S)_2(SCMe_3)を得た(収率35%)。PhNHNPhとの反応においてアニリンが副生成物として得られることから,これらの反応ではヒドラジンのN-N結合切断がモリブデンを酸化し,チオラートの炭素-硫黄結合切断が誘起されたものと思われる。
|