本研究の第一歩として、単色性の高い熱エネルギ分子線を用いる超音速分子線散乱設備を製作した。この設備は超音速分子線源室、分子線散乱室、分子線検出室、各室を真空に保つために必要な差動真空排気系、及び分子線信号検出・増幅・解析のためのエレクトロニクス等から成っている。次に、製作した超音速分子線散乱設備の性能を評価するために、分子線としてはHeガスを、固体表面としては構造が良く分かっており、劈開等により洗浄表面を得るのが容易なアルカリハライド等の単結晶を用いて分子線散乱実験を実施した。ヘリウム分子線に関してはエネルギ分散ΔE/E=8%が飛行時間法を用いた測定にて確認され、ヘリウム分子を波動と考えても10Å程度の可干渉距離が有ることが分かった。この干渉性の高い分子線を用いてLiF(100)単結晶表面からの散乱分子線の空間分布を測定したところ[100]及び[110]方向入射に対して結晶の格子間隔を反映した回折散乱が2次のオーダーまで得られた。また、分子線散乱室及び分子線検知器室については極めて良好な超高真空状態が確保されており、今後金属材料表面等の雰囲気ガス汚染に敏感な試料についても充分計測が可能であることが確認された。予算の削減のため低融点金属材料の分子線源の製作は断念したがその他の点に関しては、当初の目的を満足させるに十分な性能を持つと思われる超音速分子線散乱設備の試作に成功した。
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