本研究は大略(1)超音速分子線散乱装置の製作、(2)装置の基本特性の評価、(3)表面単原子層構造の作成、(4)表面物性の評価、から成り立っている。現在(1)及び(2)を完了し(3)に取り組み中である。(1)では約1年間を設計・製作に費やし、当初の設定目標を満足する特性、即ち分子線の強度、エネルギー分散及び空間分解能を得た。(2)において表面構造が良く分かっており、また表面の再構成が行われないアルカリハライド単結晶を用いてヘリウム原子線の回折散乱計測を行い(1)で得た特性を実験的に確認した。また半導体材料や白金単結晶表面に関しても同様な実験を行った。(3)においては、メタン分子に注目しアルカリハライド単結晶表面における運動エネルギーの伝達機構に着目した。メタン分子の衝突解離反応を妨げる表面での非弾性散乱の程度を実験的に検証した。メタン分子の非弾性散乱の程度が同一結晶表面上においても異方性があり、分子線の入射方位に強く依存することを明らかにした。また、メタン分子の運動エネルギーをより大幅に変えるために、分子線源の加熱機構を導入した。これによりメタン分子の運動エネルギーが10meVから1000meVまで可変になった。これによりメタン分子衝突解離による炭素原子の析出課程を研究する目途がついた。(4)に関しては、表面物性として仕事関数と化学反応活性度を対象にしている。仕事関数評価法としてケルビン法と電子線励起による2次電子の立ち上がり特性設計を予定しており既に準備実験を完成した。化学反応活性度に関しては炭素の単原子層上での反応に注目していく予定である。
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