本研究の第一の目的は、超音速分子線技術によって得られる高輝度で単色性の高い熱エネルギ分子線を用い、その入射エネルギや入射方向を制御することにより通常の熱平衡状態では実現不可能な非熱平衡な構造(超構造)を人為的に固体表面上に創製し、これにより、表面に新物性を発現させることにある。本研究の第二の目的は、この超音速分子線技術を用いることにより、非破壊・無擾乱の計測による超構造の解析や化学活性度等の新物性の評価を行うことである。既にこの目的に適合する分子線散乱装置を製作し、表面構造の無擾乱計測を実施すると共に、化学反応においては無視できない反応種の非弾性散乱に関する貴重なデータを得た。 本年度は、当初の計画通りミクロスコピックな表面の構造が化学反応活性度に及ぼす影響を詳細に検討するために高感度検出機構を既に構築した分子線散乱装置に付加した。化学反応における微量な反応生成物の検出にはバックグランドの低い状態を作り、信号のS/Nを向上させる必要がある。また、生成物の分子線エネルギーを高分解能にて計測するためには従来よりも分子線の飛行距離を長くする必要がある。この目的のために、独立排気系を備えた検出室の増設や分子線の後段変調を行った。この後段変調には擬ランダムチョッパー方式を新たに採用し、長い飛行距離に伴う検出感度の低下データ処理技術で補う施策を行った。
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