研究概要 |
申請者らはこれまでに,Co基自溶合金ステライトNo.6SFをガスフレーム法により溶射した部材の疲労特性に注目して研究を行い,(i)溶射処理を施した部材は,疲労寿命のバラツキが大きく,疲労寿命曲線(S-N曲線)を明確に定め得ないこと,(ii)皮膜組織形態および皮膜中の溶射欠陥が,疲労き裂の発生・進展機構に大きな影響をおよぼすこと,等を明らかにした.したがって,このような溶射部材の疲労特性を向上させ信頼性を確保する為には,皮膜中の溶射欠陥の量あるいはその大きさを何らかの方法で,コントロールすることが必要と考えられる. このような観点から本研究では,通常,自溶合金の溶射工程で手作業により行われる再溶融解処理を,高周波誘導加熱装置を用いて加熱時間あるいは最高到達温度を種々に変化させて行い,それらの試験片の皮膜組織性状および疲労特性を詳細に調べた.その結果,高周波誘導加熱装置により再溶融処理を施した試験片の場合には,手作業により再溶融処理を施した試験片と比較して,疲労寿命のばらつきは多少抑制されるものの,疲労強度特性は逆に低下することが明らかになった. そこで次に,このような疲労寿命のばらつきをさらに抑制し,同時に疲労強度特性を向上させることのできる新しい処理条件の確立を目的として,皮膜の溶融開始温度(1040℃)まで高周波誘導加熱装置を用いて加熱した後,出力を調整することにより一定時間保持を行うことを試みた.その際,加熱保持時間を系統的に変化させ,皮膜組織性状と疲労特性におよぼす影響について検討・考察を加えた.その結果,溶射皮膜を完全に溶融させ,優れた組織性状と疲労強度特性を有する皮膜を得るためには,再溶融処理温度およびそこに到達するまでの時間に加え,加熱保持時間も適切にコントロールする必要があることが明らかになった.
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