研究概要 |
1995年兵庫県南部地震において,我が国の震災史上初めて建築鉄骨に脆性破壊の被害が報告され、各方面でその原因を究明し対策を立案するための研究が行われている。この研究は、その中でも特に脆性破壊の高い危険性が潜在している極厚鋼溶接接合部を対象に地震時の繰返し負荷による脆性破壊のメカニズムについて探究したものである。 従来、数回あるいは十数回の塑性ひずみ履歴を伴う負荷によってき裂が発生する現象は極低サイクル疲労と呼ばれてきたが、破面形成の微視的メカニズムの観察からそれは誤りであり、大きな塑性ひずみ履歴下で発生するき裂は延性き裂であることが明らかにされている。この研究では、その観点からき裂の発生現象を定量化し、その延性き裂が脆性破壊に転化する条件などについて実大実験を通して検討を行った。 それによると、延性きれつの発生はその起点における応力三軸度および材料固有の一様伸び能力で決まること、さらに、繰り返し載荷におけるき裂発生は延性破壊のメカニズムの範囲では単調載荷でのき裂発生ひずみで推定できることが明らかとなった。また、延性き裂が発生してから脆性破壊に至るまでの塑性ひずみ能力は、部材の板厚と材料のシャルピー吸収エネルギーから推定できることがわかった。これらの関係は、溶接入熱による材質変化や溶接ビ-ドによる形状変化を考慮すれば、溶接接合部へも適用可能である見通しが得られた。 しかしながら、建築鉄骨における脆性破壊の現象は非常に大きなばらつきを伴うものであることが再確認され、今回の研究だけからは最終的な処方箋を得るには至らなかった。今後、さらに実験データを蓄積して破壊の危険に曝される建築鉄骨の耐震設計技術を開発していく必要がある。
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