研究概要 |
単結晶を用いたMoSi_2の変形に関する実験によって、我々は1000℃以下の温度範囲で、MoSi_2単結晶はこれまでに全く知られていなかった異常な変形能を示すことを発見した。本研究の目的は、この変形能をもたらすメカニズムについて研究を進め、さらにこのような変形能がMoSi_2以外の遷移金属ダイシリサイドにも存在するか否かを明らかにすることである。本年度は、MoSi_2以外の遷移金属ダイシリサイドであるMo(SiAl)_2、NbSi_2、CrSi_2、VSi_2、TaSi_2、TiSi_2の変形について研究し、以下の結果を得た。 (1)いずれの結晶においても等価なすべり系が実際に活動し、その活動開始温度は、低温グループMoSi_2,VSi_2,NbSi_2,TaSi_2,TiSi_2 : 0.3Tm高温グループCrSi_2,Mo(Si,Al)_2 : 0.6Tmと二つのグループに分かれた。(Tmは融点) (2)いずれの結晶でも等価なすべり系で活動する転位は、積層欠陥を挟んで二本のcolinearな部分転位に分解している。その分解幅は高温グループのCrSi_2,Mo(Si,Al)_2では低温グループの約2倍であった。これは、低温グループの結晶が通常のシア-で変形するのに対し、高温グループの結晶はシンクロシア-で変形するためである。 (3)高温グループの結晶で観察したシンクロシア-はCll_b/C40の相安定性に何らかの関係があると考えられる。 (4)Cll_b,C40,C54型構造と結晶構造が異なるにもかかわらず、等価なすべり系が活動する時、すべり機構が同じなら、すべり変形の難易には大きな差異はない。 (5)MoSi_2に対する各元素の固溶度は、Cr>V=Nb=Ta>Tiであったが、一番固溶するCrでさえMoを10%置換するには至らない。 (6)MoSi_2との複相材の候補として、MoSi_2のへい開面と位相界面が垂直となり、靭性が向上するであろうNbSi_2,TaSi_2が有力である。
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