研究概要 |
有機ケイ素化合物のクロスカップリング反応について,フッ化物イオンに代わる新しい有機ケイ素化合物の活性化法を検討した。まず,アリールシランとビニルエポキシドとのクロスカップリング反応をおこなった。その結果,アリールシランとしてジフロロシランを用い,反応温度が40℃の場合に,対応するクロスカップリング生成物がもっとも収率よく得られることがわかった。ここでは,ビニルエポキシドがパラジウム触媒に酸化的付加して系内に生成するアルコキシドイオンが,炭素-ケイ素結合を活性化しトランスメタル化を起こさせて反応が進行したと考えている。また,アルケニルクロロシランやアリールクロロシランと有機ハロゲン化物とのクロスカップリング反応が水酸化ナトリウムを活性化剤として非常に穏和な条件で円滑に進行することを見つけた。この反応は、クロロシランの入手容易さとフッ化物イオンに代わって安価な水酸化ナトリウムを使用できることから,その合成的意義はきわめて大きいといえる。 4位を重水素で標識した2-シクロヘキセニルシランとハロゲン化アリールとのクロスカップリングをおこない,環状アリルシランのクロスカップリングの反応機構を調べた。その結果,この反応は脱離基とフッ化物塩の種類により反応経路が変化することがわかった。すなわち,ヨウ化物とTBAFを用いた場合に反応はγ-antiで選択的に進行し,トリフラートとCsFを用いた場合には反応がα位で優先的に起こっていることをみつけた。 硫黄-炭素結合の活性化を基盤とする酸化的脱硫フッ素化反応の応用としてフルオロプ-メラ-転位を検討したところ,フッ素化剤に二水素三フッ化テトラブチルアンモニウム,酸化剤に1,3-ジブロモ-5,5-ジメチルヒダントインを用いれば,硫黄原子のα位がフッ素化された有機硫黄化合物が簡便に合成できることがわかった。
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