研究概要 |
本申請課題では,植物組織培養における有望な材料として注目されている毛状根を用い,化学合成が困難なベタシアニン系,アントラキノン系色素の大量生産および高選択的変換の達成を目的とし,本年度は,植物由来の代表的かつ有用な色素として,レッドビ-ト毛状根が生産するベタシアニン系色素,セイヨウアカネ毛状根が生産するアントラキノン系色素を取り上げ,植物細胞による色素生産の効率化に関する検討を行い,以下のような結果を得た. 1.レッドビ-ト毛状根の色素含有量は,細胞内のリン濃度に大きく依存することを明らかとした.さらに,レッドビ-ト毛状根の増殖に伴う色素生産特性を明確にするため,速度論モデルを構築した.色素含量は,毛状根長さ方向に沿って位置依存性が観測された.この毛状根長さ方向に沿った色素含量変化や細胞内リン濃度の効果を考慮した毛状根の色素生産速度式を導出し,ファーメンターを用いた毛状根培養における色素生産過程を速度論的に表現した. 2.セイヨウアカネ植物の根部は,アントラキノン系有用色素アリザリンの配糖体(Al-P)および構造の類似したルシジン配糖体(Lu-P)を含む.通常の液体培地で培養した場合,Lu-Pを優先的に生成するが、培地中の浸透圧を増加させるためマンニトールを添加し培養を行うと,顕著なAl-P生成量の増加が認められた.また,Al-PおよびLu-Pの比生産速度に対するマンニトール濃度の影響を考慮した分枝増殖モデルに基づいて,セイヨウアカネ毛状根による色素生成の培養過程を説明できた. 3.植物細胞内に生成・蓄積された色素の効率的な回収を行うため,種々の溶媒による植物細胞からの色素抽出を行った.セイヨウアカネ根部から,クロロホルムと水酸化カリウム水溶液の2相系抽出により,アリザリンとルシジンおよびそれらの配糖体を,それぞれの相に分別抽出できた.
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