研究概要 |
分子生物学的視点から、樹木中でのリグニン化機構を解明するために、リグニン生合成のターゲット酵素遺伝子として、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)、O-メチルトランスフェラーゼ(OMT)、ペルオキシダーゼ(PO)、シンナミック酸-4-ハイドラーゼ(CA4H)遺伝子に注目し、交雑ヤマナラシ(キタカミハクヨウ)からリグニン生合成に関与する遺伝子の単離、同定を試みた。先ず、遺伝子ライブラリーを構築し、これより数種の遺伝子の単離に成功した。サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーションにより、それぞれの遺伝子の特性及び樹木中での部位発現特異性を検定した。さらに、各遺伝子のプロモーター領域の単離と塩基配列の解析を行い、これらのプロモーター領域の下流にレポーター遺伝子としてGUS遺伝子をつなぎ、GUS発現により組織特異的発現を顕微鏡観察下で行った。 その結果、リグニン生合成に関与している遺伝子として、PALではpalg2bが検出された。OMTではhomt1が当年枝の木質化しつつある組織に局在していることが明らかになり、これらの遺伝子がリグニフィケーションに関与していると推定された。POに関しては、5つのグループ分けが出来る多くの遺伝子が単離されたが、その中でもprxA3a,prxA4aはリグニフィケーションに関与する遺伝子として特定された。CA4HではゲノムDNAから4種の遺伝子断片cyp73a,cyp73b,cyp73c,cyp73dを単離出来た。これより、プロモーター領域を用いたGUS活性染色により、cyp73aは主に茎の維管束、葉の主葉脈で発現していることより、樹木のリグニフィケーションに関与する遺伝子と推定した。 これらの遺伝子を用いたアンチセンスRNA法による形質転換タバコ及び交雑ヤマナラシのリグニン合成抑制植物の作出が試みられている。現在homt1抑制形質転換タバコからは、酵素活性の抑制された個体が作出され、リグニン含量は低下していた。また、ポプラからの形質転換体からも類似の結果が得られ、特にリグニン化学構造的に縮合度の低い、易分解性のリグニンが生成されていた。また、PO抑制樹木も作出され、正常な個体として生育している。今後精緻な化学分析が行われる予定である。
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