研究概要 |
農家など自営業家計および家計内生産をいとなむ勤労者家計の経済活動は,主として企業の経済活動によってひきおこされる,国民経済の変動を雇用ならびに財・サービス需要両面において安定化するとする観察がある.丸山ら(1995)は,自己雇用生産体の理論および効率賃金仮説をもちいて,この作用の可能性を理論的に厳密に立証し,その成果をすでに発表している. 本年度は,わが国の労働力統計および国民経済計算に加えて米国のCurrent Population SurveyおよびNational Income and Product Accounts をもちいて,この可能性の検証をこころみた.また,在来のトレンド除去法に加えて,Hodrick-Prescott filterをもちいて改善をはかった.その結果,自営業主,家族従業者ならびに非労働力からなる家族雇用は,日米両国において企業による雇用需要の変動を緩和していること,さらに,その大きさは,わが国において失業が吸収する割合の5倍に達し,米国においては40%に達することが明らかになった.両者の差は両国における家族雇用層の厚さの差に帰せられるであろう. 他方,サービス,非耐久財に対する家計消費支出および政府消費支出の変動係数は,やはり両国においてGDPの変動係数より小さく,家計消費支出の大きなシェアも相まってGDPの変動を緩和していることが確認された.さらに,わが国においては政府住宅投資と輸入の変動が,米国においては防衛支出と輸入の変動がGDPの変動と逆相関関係にあり,政府による経済安定化政策ならびに輸入の自動安定化作用の可能性を確認するとともに,自営業家計および家計内生産を営む勤労者家計が,私人の資格でケインズ型の経済安定化施策を実質的に講じていることが確認された.
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