研究課題
基盤研究(A)
天竜川に沿って幾重にも形成される川岸段丘は、日本を代表する景観の一つである。斜面樹林の帯は伊那谷独特の景観を生み出し、段丘崖に生じる湧水は豊かな生産と生活への潤いを与えてきた。しかし最近、この景観が姿を変えつつある。斜面樹林が他の土地利用や施設導入により分断され、段丘崖の湧水量が減少し、斜面樹林の樹種が変化している。河岸段丘の景観変化は、周辺地域の開発などによる影響を受けている。本研究は、天竜川河岸段丘の景観変化の事態とそれに伴う諸現象の解明を目的として行われた。研究の結果は次の4つの課題を設定して行われた。(1)河岸段丘及び周辺部の斜面樹林・景観の解析、(2)段丘崖の土地利用の変化と住民意識、(3)段丘崖の生物相の解析、および(5)段丘崖を含む周辺全域の地水環境の把握。研究結果は下記の通り要約される。(1)斜面樹林の多くは私有地であるが、現在生産と生活のつながりは失われ、粗放化している。(2)地域住民の多くは斜面樹林、地形の保全に強い関心を持っている。しかし今後の保全に関しては、居住年数10年未満の層で「どちらでもよい」がもっとも多かった。(3)カタクリの生育、チョウ、クワガタムシの生息、ケヤキ林の生育環境が検討された。(4)伊那谷、天竜川下流域の生垣の特徴を検討した結果、気候、風土を反映して地域差が認められた。(5)森林伐採が土壌構造に及ぼす影響を土壌微生物の働きと関連して検討された。(6)伊那谷の山岳域を含む風の構造と温度環境、土壌水分環境が把握された。(7)段丘崖に生じる湧水の水質が明らかとなった。(8)段丘崖により土壌も、そこに生息する土壌動物相も著しく異なった。またサワガニの体色異変と地理的隔離性が明らかにされた。伊那において研究を行う者にとって見過ごせない問題の一角が明らかとなった。さらに斜面樹林や段丘崖の保全、住民の安全に役立つよう周辺環境の解明を行う必要がある。
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