研究課題/領域番号 |
07406019
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小沼 操 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 教授 (70109510)
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研究分担者 |
大橋 和彦 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 助手 (90250498)
杉本 千尋 北海道大学, 大学院・獣医学研究科, 助教授 (90231373)
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キーワード | 原虫表面抗原遺伝子 / 免疫回避 / タイレリア原虫 |
研究概要 |
Theileria sergentiにピロプラズマ主要表面抗原(p32)には池田型(I-type)、千歳型(C-type)、オーストラリア型(B-type)の大きく3種に大別されることが、今までの研究から明らかにされている。世界各国に分布する良性タイレリア原虫株には、この3種の表面抗原型を持つ原虫が混在しており、原虫の生存にとって、表面抗原の多様性が何らかの重要な意義を持っていると考えられいる。各型間では抗原性に違いが見られることから、原虫集団の置き換わりによる抗原変換あるいは遺伝子構造の変化による抗原変異が免疫回避と何らかの関連を持っていることが推測された。我が国の牛小型ピロプラズマ感染症の疫学解析、ワクチン開発の上で、はたして表面抗原遺伝子に変異が起こるのか、また感染個体内にどの程度の表面抗原多様性を持つ集団が存在するのかなど明らかにすることが極めて重要である。 そこで、混成集団から構成される非クローン化原虫株(新得株=I-type+C-type)感染牛体内での各型のp32遺伝子の多様性と感染経過による多様性の変動を検討した。新得株実験感染牛から3回の寄生率のピーク時に原虫を採取し、DNAを精製した。そこから型特異PCRによってC型あるいはI型p32遺伝子を増幅し、産物をプラスミドベクターにクローニングした。各寄生率のピーク毎に、IおよびC type p32クローンを5クローン選び出し、塩基配列を決定した。感染2個体について第1〜第3回のピークについて解析した。塩基配列解析の結果、アミノ酸の置換を伴う非同義的な塩基変異は解析したクローンにも認められ、その検出頻度はI-type 30クローン中20、C-type 15クローン中6クローンであった。特にアミノ酸変異が集中している部位(hot spot)は認められなかったが、一次構造に大きな変化を与えるであろうアミノ酸置換(荷電残基から非荷電残基、特にグリシンへの置換)も認められた。このような数個のアミノ酸変異が抗原性にどう影響を与えるかについては、今後解析する予定である。 つぎに、SCIDマウス中でクローン化された原虫(新得株由来:C-typeのみで構成されるクローン)を牛に接種して、同様の解析を行った。クローン化原虫を牛に感染させ、寄生率の変化を追ったところ、50日目までに2回の寄生率の上昇と150日目以降2回の寄生率のわずかな上昇が認められた。第一と第二寄生ピーク時の原虫を採取し、p32遺伝子をPCRで増幅し、プラスミドにクローニングして、塩基配列を決定した。その結果、第一と第二寄生ピーク時の原虫p32遺伝子はC-type p32遺伝子の塩基配列と完全に同一であり、ピーク間に遺伝子変化による抗原変異が起きている可能性は否定された。このことから、原虫の第一回目の増殖時に引き起こされるp32に対する宿主の免疫応答は、原虫のその後の増殖(第二寄生ピーク形成)に影響を及ぼさないのではないかと考えられた。しかし、寄生率の2回目の上昇以降、寄生率は極めて低く抑えられていることから、1階の寄生率の上昇では、効果的な免疫が誘導されないとも考えられた。
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