本研究の目的は、グルタミン酸神経伝達系の制御機構を明らかにすることによって、脳機能発現のメカニズムを明らかにすることである。2年間の研究において、種々のグルタミン酸受容体(mGluR2、mGluR6、NR2A、NR2C)のノックアウトマウスを作製することにより、以下の多くの新しい事実を明らかにした。 1. mGluR6は視覚系の明暗の識別において明るさを決定する受容体として働くこと、又本受容体が欠損すると視覚刺激には反応するが、明暗の識別が顕著に低下することを明らかにした。 2. mGluR2は海馬体GA3シナプスの長期抑圧を引き起こす受容体であるが、海馬体CA3シナプスの長期抑圧は空間記憶に関わっていないことを明らかにした。 3.小脳顆粒細胞のNMDA受容体のNR2A、NR2Cサブユニットは筋肉運動の調整に必須であり、両サブユニットが欠損すると協調した運動の障害が起こることを明らかにした。 4. mGluR1とmGluR5は共に細胞内のIP_3/Ca^<2+>の産生を高めるが、Ca^<2+>上昇の反応性が異なり、プロテインキナーゼCによる受容体の燐酸化の有無がmGluR5とmGluR1のCa^<2+>オシレーションの生成の有無を決定していることを明らかにした。 5. mGluRに対する種々のアゴニスト、アンタゴニストをフェニルグリシンをもとに合成し、mGluRのアゴニスト、アンタゴニストの構造活性相関を明らかにし、新たなアゴニスト、アンタゴニストの開発の道を開いた。
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