がんの形態形成に関わる細胞間相互作用とシグナル伝達の研究

1996 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07407007
• 研究種目: 基盤研究(A)
• 研究機関: 国立がんセンター
• 研究代表者: 広橋 説雄 国立がんセンター研究所, 副所長 (70129625)
• 研究分担者: 金井 弥栄 国立がんセンター研究所, 病理部, 研究員 (00260315) ; 津田 均 国立がんセンター研究所, 病理部, 主任研究官 (70217321) ; 坂元 亨宇 国立がんセンター研究所, 病理部, 室長 (40221270) ; 山田 哲司 国立がんセンター研究所, 病理部, 室長 (30221659) ; 落合 淳志 国立がんセンター研究所, 病理部, 室長 (60183034)
• キーワード: 細胞接着 / がん間質相互作用 / カドヘリン / カテニン / インテグリン / チロシンリン酸化 / シグナル伝達

研究概要

(1)ヒトがん由来細胞株および肝細胞がん手術材料において、E-カドヘリン遺伝子転写調節領域のCpGメチル化がE-カドヘリン発現低下を惹起することを示した。
(2)変異β-カテニン遺伝子をヒト胃がん・大腸がん細胞株にtransfectionし、c-erbB2がん遺伝子産物とE-カドヘリン裏打ち蛋白β-カテニンの直接結合を競合的に阻害することによって、ヌードマウスにおける腹膜播種ならびに血行性肝転移を抑制し、がん細胞の組織学的分化を誘導した。本知見は、細胞間接着分子とがん遺伝子産物の相互作用によりがんの形態形成にいたるシグナル伝達の一端を明らかにするものある。がんの形態形成に着目したシグナル伝達系の阻害によってがん治療の新局面を開くため、研究を継続している。
(3)ヒト大腸高分化腺がん培養細胞がホルボールエステル処理により管状構造を失い迅速にspreadingするin vitroモデルを解析し、インテグリン裏打ち蛋白パキシリンのリン酸化につづいて、focal adhesionが形成されるとともにカドヘリン機能が失われる経過を明らかにした。
(4)膀胱がんに特徴的な広汎な上皮内進展のin vivo・in vitroモデルを構築し、同進展様式に対するインテグリンヘテロダイマーの寄与を明らかにした。さらに、インテグリンの発現調節機構や同進展様式に関与するシグナル伝達系について研究を進めている。
(5)大腸がん臨床症例の肝転移率ならびに予後と高い相関を示す新たな浸潤様式の形態学的分類(streak typeならびにnon-streak type)を提唱した。Streak lesionの成立に寄与するがん細胞-腫瘍間質間相互作用の分子機構について理解を深めるため、streak lesion内のチロシンリン酸化蛋白に対するモノクローナル抗体を作成し抗原分子に関する解析を進めている。

研究成果

• [文献書誌] Sakamoto M.,Setsuo Hirohashi,et al.: "Formation of focal adhesion and spreading of polarised human colon cancer cells in association with tyrosine phosphorylation of paxillin in response to phorbol ester." Lab.Invest.74. 199-208 (1996)
• [文献書誌] Inomata M.,Setsuo Hirohashi,et al.: "Alteration of β-catenin expression in colonic epithelial cells of familial ademoatous polyposis patients." Cancer Res.56. 2213-2217 (1996)
• [文献書誌] Shibata T.,Setsuo Hirohashi,et al.: "Dominant negative inhibition of the asociation between β-catenin and c-erbB-2 by N-terminally deleted β-catenin suppresses the invasion and metastasis of cancer cells." Oncogene. 13. 883-889 (1996)
• [文献書誌] Osada T.,Setsuo Hirohashi,et al.: "E-caderin is involved in the intrahepatic metastasis of hepatocellular carcinoma." Hepatology. 24. 1460-1467 (1996)
• [文献書誌] Yamada T.,Setsuo Hirohashi,et al.: "Aberrant expression of a hemidesmosomal protein,bullous pemphigoid antigen 2,in human squamous cell carcinoma." Lab.Invest.75. 589-600 (1996)
• [文献書誌] Shibata T.,Setsuo Hirohashi,et al.: "Idenitification of human cadherin-14,a novel neural-specific type II cadherin,by protein interation cloning." J.Biol.Chem.272. 5236-5240 (1997)