がんの形態形成に関わる細胞間相互作用とシグナル伝達の研究

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07407007
• 研究機関: 国立がんセンター
• 研究代表者: 広橋 説雄 国立がんセンター, 研究所, 副所長 (70129625)
• 研究分担者: 金井 弥栄 国立がんセンター, 研究所病理部, 室長 (00260315) ; 津田 均 国立がんセンター, 研究所病理部, 室長 (70217321) ; 坂元 亨宇 国立がんセンター, 研究所病理部, 室長 (40221270) ; 山田 哲司 国立がんセンター, 研究所病理部, 室長 (30221659) ; 落合 淳志 国立がんセンター, 研究所支所臨床腫瘍病理部, 部長 (60183034)
• キーワード: 細胞接着 / がん間質相互作用 / カドヘリン / カテニン / インテグリン / チロシンリン酸化 / シグナル伝達

研究概要

大腸がん臨床症例の肝転移率ならびに予後と高い相関を示すstreak lesionの成立の分子機構の理解の一助とするため、細胞接着系とwntシグナル伝達系のクロストークを担うβ-カテニンについて免疫組織化学的検討を試みた。Strcak lesionにおいてfocal dedifrerentiationを示す腫瘍細胞の細胞質にβ-カテニンの蓄積が見られた。瀰漫型胃がんにおいては、K-samがん遺伝子産物などの活性化を介したβ-カテニンのチロシンリン酸化と細胞質への蓄積が、細胞間接着性低下と浸潤性増殖を惹起するシグナル伝達系の一端を担う可能性があると考えられた。増殖因子の作用でβ-カテニンの第12アルマジロ反復配列がチロシンリン酸化を受けることが確かめられた。そこで、チロシンリン酸化部位を欠如するような変異β-カテニン遺伝子をヒト胃がん・大腸がん細胞株に導入し、受容体型チロシンキナーゼとβ-カテニンの直接結合の競合的阻害を試みた。導入細胞においては、細胞細胞間接着性が回復するとともに、インテグリンβ_4発現が誘導されて細胞基質間接着性も変化し、アポトーシスが誘導された。導入細胞においてはヌードマウスにおける腹膜播種ならびに血行性肝転移が抑制されていた。
膀胱がんに特徴的な広汎な上皮内進展のin vivo-in vitroモデルを構築し、インテグリンβ_4の発現低下とインテグリン_<α6>β_1の相対的優位が、基底膜成分であるラミニン上での膀胱がん細胞の運動能を亢進させ、広汎な上皮内進展に寄与することを示した。インテグリンβ_4の発現調節機構の理解の一助とするため同遺伝子の5'flanking regionをクローニングし、-106ないし+105位にAPIならびにEts転写因子が結合する活性プロモータが存在し、第1イントロンの一部と-414ないし-107位がエンハンサー活性を有することを示した。

研究成果

• [文献書誌] Kazufumi.Honda,et al.: "Actinin-4,a novel actin-bundling protein associated with cell motility and cancer invasion" J.Cell.Biol.,. 140(6). 1383-1393 (1998)
• [文献書誌] Setsuo Hirohashi: "Inactivation of the E-cadherin-mediated cell adhesion system in human cancer" Am.J.Pathol.,. 153(2). 333-339 (1998)
• [文献書誌] Takeshi Fukuchi,et al.: "β-catenin mutation in carcinoma of the uterine endometrium." Cancer Res.,. 58(16). 3526-3528 (1998)
• [文献書誌] Shingo Akimoto,et al.: "Expression of cadherin-catenin cell adhesion molecules,phosphorylated tyrosi residues and growth factor receptor-tyrosine kinases in gastric cancers." Jpn.J.Cancer Res.,. 89(8). 829-836 (1998)
• [文献書誌] Asako Suzuki-Takaoka,et al.: "Cloning and characterization of the human β4-integrin gene promoter and enhancers." J.Biol.Chem.,. 273(50). 33848-33855 (1998)
• [文献書誌] Tohru Harabayashi,et al.: "Reduction of integrin β4 and enhanced migration on laminin in association with intraepithelial spreading of urinary bladder carcinomas." J.Urology. (in press). (1999)
• [文献書誌] Atsushi Ochiai,et al.: "Epithelial Morphogenesis in Development and Disease" Harwood Academic Publishers GMBH,Amsterdam (in press), (1999)