研究概要 |
本研究は、冠動脈の緊張亢進や内膜肥厚の防止の為に、(1)平滑筋や内皮細胞の細胞情報伝達網の特性や機能蛋白のCa感受性の制御機序を解明すること、(2)平滑筋や内皮細胞の細胞周期と機能変化との関係を解明すること、(3)分子生物学的手法を用いて平滑筋や内皮細胞の蛋白や情報系要因と細胞機能、構造との関わりを解明すること、(4)これらの研究成果をさらに動物やヒトに応用する方策を開発すること、を目的とした。以下の成果を得た。(1)本研究を通じて独自に開発した、我々の光学的〔Ca〕i測定法については、THE HUMANA PRESS,INC.(Totowa,N.J.,U.S.A.)より執筆依頼があり、シリーズ「METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY」の1分冊「Calcium Signaling Protocols(David G Lambert編)」の1章「Measurement of[Ca^<2+>]i in smooth muscle strips using front-surface fluorimetry」,P269-P277,1999として詳細を広く紹介した。本方法やスキンド標本法をin situや培養の平滑筋および内皮細胞に応用し、細胞情報伝達網に関する多くの研究成果を挙げることができた。平滑筋細胞の緊張や内皮細胞のNO産生のCa感受性制御に関する細胞分子生物学的機序の一端を明らかにした。(2)細胞周期については「平滑筋細胞の増殖」と「内皮細胞の接触による増殖抑制」に研究の的を絞った。平滑筋細胞では、増殖の細胞周期に応じてCaチャンネルの型(L,T)や、Caシグナルの用途が変わることを見出した。内皮細胞増殖の接触抑制において、ミオシン脱燐酸化酵素は細胞膜下周縁に局在化することを明らかにした。(3)遺伝子変異体を用いてカルモジュリンやミオシン脱燐酸化酵素調節サブユニットの蛋白構造一機能関係の一端を明らかにした。(4)虚血性心臓病患者ではβ3アドレナリン受容体遺伝子のTrp64Arg変異が多い、という所見を得た。臨床応用については、取りかかったばかりであり、確たる成果を挙げるには至らず、今後の課題として残った。
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