研究概要 |
本年度は研究の最終年度にあたり、腫瘍のサイトカイン産生を標的とした遺伝子治療法の基礎的研究を終了するとともに、腫瘍特異的抗原を標的とした細胞治療の臨床応用を行うことを目標とした。まず、サイトカイン産生腫瘍株として樹立されたヒト膀胱癌細胞(KU-19-19)とヒト腎細胞癌株(KU-19-20)を標的として、IL-1α receptorおよび転写因子であるnuclear factor kappa B(NFκB)の抑制蛋白である1κBのcDNAをアデノウイルスベクターにより細胞にtransfectionし、各細胞の増殖動態およびサイトカイン産生能を検討した。 G-CSF,GM-CSF等各種血球増殖因子を主体とするサイトカイン産生腫瘍KU-19-19及びKU-19-20においてはG-CSF,GM-CSFのサイトカイン産生がIκBの遺伝子導入により著しく低下し、かつMTT assayによりその増殖性は著しく阻害された。TUNEL法およびfragmented DNA ELISA法よりこれらIκBcDNAを導入されたサイトカイン産生細胞においてapoptosisが誘導されている可能性が示唆された。一方、サイトカイン産生が明らかでない腎細胞癌培養細胞株KU-2,膀胱癌細胞株KU-1,T-24においてはIκBのcDNA遺伝子導入にともなう明らかな細胞障害は認められず、これら変化はサイトカイン産生腫瘍に比較的特異的なものであった。次に、メラノマ-腫瘍退縮抗原(MAGE)を標的とした膀胱癌に対する腫瘍特異的細胞治療の試みでは、MAGE-3,HLA A-2およびHLA-24に対応するepitope peptideを用いて,cytotoxic T cell(CTL)の誘導をin vitroにおいて検討した結果、epitope peptideのみでは充分なCTLの誘導は困難であることが判明し、その原因としては膀胱癌細胞におけるMAGE発現の免疫原性はそれほど高くないことが理由と考えられた。そこで抗原提示細胞である樹状細胞をともに用いることでより効率よいCTLの誘導が可能になることが判明した。この基礎的研究成果を基に本学倫理委員会の承認の基、臨床応用を検討している。
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