研究概要 |
免疫経過に伴う親和力マチュレーションの過程で得られる一連の抗NP(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)-アセチル)抗体群を題材とし,その抗原認識部位の高次構造をNMRにより詳細に解析し,抗体が抗原への親和性・特異性を獲得していく高次構造的背景を理解する目的で実験を行った. 抗原結合部位に多く存在することが言われている,Tyr,Trp残基をプローブとしたNMR解析を行うため,[2-^<15>N]標識Tyr,Trpを用いた抗体産生細胞の無血清培養を行い,Tyr,Trp選択的標識抗NP抗体(Fab)を得た.構造解析において重要となる抗原結合部位(可変領域)由来のNMRシグナルの帰属には, 1.[1-^<13>C]標識したアミノ酸を利用した^<15>N-^<13>C二重標識法によるsequence specificな帰属, 2.安定同位体標識・非標識H鎖,L鎖の組み換え(再構成)実験によるchain specificな帰属, 3.各NP抗体間の比較による定常領域由来のシグナルの帰属, を組み合わせることで行った. 帰属のついたシグナルをプローブとし各種NP抗体について,抗原結合部位の同定,および抗原結合部位のもつ動的構造の解析を進行中である. また,マチュレーションの各過程の抗体群について,Fabに存在するTrp残基がハプテンNPにより消光する現象を利用したstopped flow測定により,抗原結合反応の速度論解析を行った.その結果,初期抗体N1G9に対し,Trp33→Leu置換型の後期抗体3B44およびB2では抗原への親和力の増大は主に結合速度定数(kon)の増大に起因していることが明らかとなった.これは自然界における親和力の増大には,抗原抗体結合の相補性の向上のみならず,結合過程の改善も重要な役割を果たすことを示す結果であり,抗原結合部位における運動性との関連が示唆される.
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