研究概要 |
免疫経過に伴う親和力マチュレーションの過程で得られる一連の抗NP((4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)-アセチル)抗体(Fab)群を題材とし、その抗原認識部位の高次構造をNMRにより詳細に解析し,抗体が抗原への親和性・特異性を獲得していく高次構造的背景を理解する目的で実験を行った. 昨年度までに,抗原結合部位に多く存在することが言われている,Tyr,Trp残基の主鎖アミド基の^<15>N,^1H-NMRシグナルの帰属を終了した.本年度は,帰属されたNMRシグナルをもとに,親和力マチュレーションの過程にある代表的な2種類の抗体を中心としたNMR解析を行った.抗体としてはgermline型の初期抗体であるNlG9と,H鎖Trp33→Leu置換により,約10倍の親和力マチュレーションを示した後期抗体B2を用いた.その結果, (1)スピンラベル化NPハプテンを利用し,初期抗体NIG9と後期抗体B2の抗原結合部位を同定した結果,抗原結合部位は同じであること, (2)緩和時間測定の結果,後期抗体B2の抗原結合部位には初期抗体NIG9にはみられない,動的構造多形が存在すること,すなわち柔軟性が高いこと, が明らかとなった. Stopped-flow測定による速度論解析の結果からは,初期抗体NIG9に対し後期抗体3B44およびB2では,抗原への親和力の増大は主に結合速度定数(kon)の増大に起因していることが明らかとなっている. これらを総合して考察すると,抗NP抗体におけるH鎖Trp33→Leu置換による親和力マチュレーションは,抗原結合部位に運動性を与えることで、抗原結合過程を改善させるタイプであると考えられる.この結果は,天然の抗体には,ダイナミックな親和力向上機構が存在することを意味し非常に興味深い事実と考えられる.
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