研究概要 |
免疫経過に伴う親和力マチュレーションの過程で得られる一連の抗NP((4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)-アセチル)抗体群を題材とし,抗体が抗原への親和性・特異性を獲得していく高次構造的背景を理解する目的で実験を行った. 免疫過程の各段階で得られた抗原群に対し,ストップトフロー蛍光法による速度論解析を行ったところ,抗NP抗体の親和力マチュレーションにおいて頻繁に見られる,H鎖Trp33→Leu置換による親和力の上昇は主に結合速度定数(kon)の増大に起因していることが明らかとなった.この親和力増大の機構を高次構造の観点から明らかにするために,抗原結合部位に多く存在するTyr,Trp残基をプローブとした安定同位体利用NMR解析を行った.帰属されたNMRシグナルをもとに抗原結合部位の構造解析を行った結果,以下の高次構造情報が得られた. 1.スピンラベル化NPハプテンを利用し,抗原結合部位を同定した結果,初期抗体N1G9とH鎖Trp33→Leu置換型後期抗体B2の抗原結合部位は同一であることが明らかとなった。 2.緩和時間測定,およびアミド水素交換速度の測定を行った結果,後期抗体B2の抗原結合部位には初期抗体N1G9にはみられない動的構造多形が存在すること,すなわち柔軟性が高いことが判明した. 得られた結果を総合すると,抗NP抗体におけるH鎖Trp33→Leu置換による親和力マチュレーションは,抗原非存在下における抗原結合部位に運動性を与えることで,抗原結合過程を改善させるものであると考えられる.このタイプのマチュレーション機構は非常に効率的であるために抗NP抗体のマチュレーションにおいて頻繁に見られると考えられる.このような抗体分子が抗原に対し,より高い親和力を獲得していく機構を考察することは,リガンド認識能の改変を目指すタンパク質工学において新たな指針を与えると考えられる.
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