研究概要 |
視覚神経系における能動的パターン認識に関連した種々のメカニズムの神経回路モデルの構成したが,そのなかでも特に「形と動きの両処理系をもつ神経回路モデル」の構成に重点を置いて研究を進めた. 哺乳動物の視覚系では,形の情報を処理する経路と動きの情報を処理する経路とが別々に存在し,並列的に働いている.そこで,視野内の複数の物体を認識する場合には,別々の経路で処理された形と動きの情報を何らかの方法によって結びつけなければならない.筆者らは,この結びつけが選択的注意機構で行われているとの仮説を立てて神経回路モデルを構成した. モデルは,形の処理系と動きの処理系の二つのチャネルからなる.形のチャネルの最上位段は認識層であり,動きのチャネルの最上位段は運動方向の知覚層である.形のチャネルは筆者が以前に提唱した選択的注意モデルとほぼ同じ構造を持っており,視野内の一つの物体に注意を向けて認識し,その物体を切り出してくる.動きのチャネルも,フォワード信号とバックワード信号の相互作用によって,特定の一つの物体だけに注意を向け,その物体の動きの方向を検出する.この二つのチャネルの注意選択機構はそれぞれ独立に働くのではなく,相手側のチャネルから送られてくるバックワード信号の影響を受けて,常に同じ物体に注意を向けるようになっている.その結果,形のチャネルの最上位段では,視野内の一つの物体の形を認識し,動きのチャネルの最上位段ではその物体の動きの方向を抽出する.モデルはその後,次々と別の物体に注意を切り替えながら,視野内の複数の物体を順番に分析していく.このモデルが正しく働くことを,コンピュータシミュレーションによって確認した.
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