研究概要 |
真核生物鞭毛運動の原動力を発生する蛋白質複合体ダイニンの機能を理解するため,クラミドモナスのダイニン異常突然変更株鞭毛の運動性を解析し,ダイニンの制御機構に関する重要な知見を得た.まず,中心対微小管などの構造を欠失しているために運動性を失った変異株軸糸が,低濃度ATP存在下あるいはATPとADPが共存する条件下で屈曲運動を行うことを見いだした.そのような運動は,変異株軸糸にさらにダイニン内腕の大部分を失う変異が加わっても生じたが,外腕を欠失すると全く見られなくなった.これらのことから,ダイニン外腕にはそれ自体に軸糸の屈曲運動を発生する潜在的活性があるが,内腕は中心対微小管による制御の下でのみ屈曲運動を行えることが示唆された.すなわち,ダイニン内腕と外腕はその制御機構が全く異なる可能性が生じた.次に,ダイニン外腕欠失軸糸に単離外腕を再結合する実験系を用いて,周辺微小管上のダイニン結合部位が外腕の活性を調節している可能性を示唆する結果を得た.活性調節が活性部位から遠く離れた基部によって調節されているという可能性は興味深い.さらに,アクチンに大きな欠損を持つためにダイニン内腕の一部を欠失した変異株ida5の構造的・機能的異常を解析した.以前から内腕にアクチンがサブユニットとして含まれていることは知られていたが,機能は明らかになっていなかった.この変異株の単離により,今後,その機能解明の研究が前進すると考えられる.今回,その第1歩として,ida5の変異遺伝子を解析したところ,アクチンの構造遺伝子に変異が存在し,機能的なアクチンを全く発現していないことが判明した.さらに,この変異株で発現しているダイニン内腕の一部には,アクチンに変わる別種の新蛋白質が結合していることが明らかになった.この新蛋白質の同定が今後の大きな課題である.
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