研究概要 |
真核生物鞭毛運動の原動力を発生している蛋白質複合体ダイニンの機能を理解するため,クラミドモナスのダイニン異常突然変異株鞭毛の運動性を解析し,ダイニンの制御機構に関する重要な知見を得た.まず,中心対微小管などの構造を欠失しているために運動性を失った変異株鞭毛に人為的に外力を加えて屈曲を発生させると,短時間屈曲運動を行うことを見いだした.そのような運動は,ダイニン内腕の大部分が失われていても生じたが,外腕を欠失すると全く見られなくなった.これらのことから,ダイニン外腕にはそれ自体に軸糸の屈曲運動を発生する潜在的活性があるが,内腕は中心対微小管による制御の下でのみ屈曲運動を行えると考えられる.すなわち,ダイニン内腕と外腕はその制御機構が全く異なることが示唆される.次に,アクチンに大きな欠損を持つために全7種のダイニン内腕のうちの4種を欠失した変異株ida5を詳しく解析した.昨年,ida5のアクチンの構造遺伝子に変異が存在し,機能的なアクチンを全く発現していないことが判明したが,その後の解析により,この変異株で発現しているダイニン内腕の一部には,アクチンに変わる別種の新蛋白質(NAP)が結合していること,その蛋白質が保守的アクチンとは64%の相同性しか持たない,新奇なアクチン関連蛋白質であることが判明した.またこの変異株を保守的アクチンの遺伝子で形質転換すると,欠失していた内腕ダイニン4種が回復することが確認された.したがって,それらのダイニンは保守的アクチンが存在しないと,軸糸上に形成されないのである考えられる.アクチン欠失変異株をアクチン遺伝子で形質転換する実験系が確立されたことは,今後ダイニンの機能におけるアクチンの役割を追求する研究にとって重要である.
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