行動や運動の学習と記憶の脳内機序において大脳基底核の黒質線条体ドーパミン系が重要な役割を担うことを示唆する知見を木村らは従来の研究によって得ている。本年度は、黒質線条体ドーパミン系を破壊した動物の大脳基底核線条体のニューロンがどのような活動特性を持つか、運動・行動の学習と記憶能力がどうであるのかを調べる研究を行った。サルの一側の黒質線条体ドーパミン系を神経毒MPTPにより選択的に破壊した。手を使った運動課題の学習に伴って、破壊と対側の線条体のニューロンは行動課題に用いられる感覚手がかりを予測したり、課題が適切に行われた後与えられる報酬を期待するなどの、課題を学習することに選って獲得されたと考えられる活動特性を持つものが多くみられた。これに対して、破壊された側の線条体のニューロンは、感覚手がかりの大きさや強さなどの物理的な性質に関連する活動や手の運動の速度や大きさなどと関連するものが多く、学習を等して形成されたと考えられるものが極めて少ないことが解った。一方、複数の運動を組み立てて一続きの運動として行うことを学習させると、約3数間で破壊と同側に手を用いる場合には予測的で極めてスムースな連続動作が可能になったが、破壊と対側の手を用いる場合には個々の運動は可能であるものの、動作に繋がりがなく、感覚手がかりに頼って離散的な運動を複数回行うことで課題を実行することが判明した。このことは黒質線条体ドーパミン系が学習と記憶の機序に深く関わることを強く支持する。8年度はこの点を更に確実に示すために研究を行う。
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