大脳基底核が順序運動の学習や記憶に関与する仕組みを明らかにするために、サルの一側の黒質線条体ドーパミン系を選択的に破壊することによって、順序運動の学習と記憶の能力にどのような影響を及ぼすかを調べた。また、線条体のニューロンの活動をドーパミン系の破壊前後で比較した。 順序運動課題として、視覚に誘導されて複数のボタンを押さえる運動を用いた。課題の学習は1個のボタンを1回押さえる課題から始め、最終的に3個のボタンを順番に3回ないし4回押さえる課題を学習させた。神経毒MPTPによるドーパミン枯渇後に学習を行わせた動物では、枯渇と同側の手の学習では第2第3のボタン押し間隔が2〜4日で急激に短縮し、連続動作へと移ったのに対して、枯渇と対側の手ではわずかな短縮が認められただけであり、離散的な運動の繰り返しであった。第一のボタン押し運動の反応時間には左右の手で差はなかった。一方、習得した3回のボタン押し課題を行っているときに、突然課題を2回のボタン押し課題に切り替えて第2のボタン押しで報酬を与えると、枯渇と同側の手の場合は、第3のボタンは点灯していないにも関わらず、一続きの運動として第3のボタンを押してしまうことが100試行ほど続いた。それに対し、対側の手では、課題を切り替えた直後であっても一度も第3のボタンを押すことは見られなかった。このことは、枯渇と同側の手を使った学習では、個々のボタン押しが順序運動として学習されているために、課題を切り替えた後しばらくは、GOシグナルによって3回のボタン押しの運動プログラムが想起されてしまうのに対し、対側の手の場合は個々のボタン押しが離散的であり、ボタンの点灯に反応するように運動していたことを強く示唆する。以上の結果から、黒質線条体ドーパミン系は、順序運動の学習と記憶想起の過程に強く関与することが明らかとなった。
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