本年度はグロビン蛋白質におけるモジュール置換のうち、ヘモグロビン、ミオグロビン間におけるモジュールM1の置換、及びモジュールM1とM2の同時置換を行い、その結果得られたモジュール置換グロビン蛋白質の会合特性や構造安定性について考察を行った。モジュールM1を置換したグロビン蛋白質としては、ヘモグロビンのα、βサブユニットをミオグロビンのモジュールM1で置換したMbααとMbββを発現、精製するのに成功した。Mbαα、Mbββともαヘリックス含量が天然サブユニットの30%程度まで低下したことから、その蛋白質構造は大きく不安定化したと考えられた。特に、Mbααでは非特異的な会合体形成が観測され、これはグロビン蛋白質としての立体構造形成が不完全で、一部の疎水性アミノ酸残基が露出していると考えられる。会合特性については、Mbααではβサブユニットとの会合が保持されていたものの、Mbββではいずれのサブユニットとも会合せず、モジュールM1のミオグロビン化に伴い、ヘモグロビンサブユニットにおける特異的な会合特性が失われたことを示している。この結果から、モジュールM1は、グロビン蛋白質の安定性に大きく寄与していること、また、モジュールM1には、会合に関与しているアミノ酸残基があまり含まれていないものの、グロビン構造の安定化ということを通して、会合特性にも影響を与えること、を示している。一方、モジュールM1とM2の同時置換をおこなったMbαMbやβαβでは、モジュールM1のみを置換したグロビン蛋白質に比べ、蛋白質構造の安定化がみられ、モジュールM1とモジュールM2間の相互作用がグロビン蛋白質の安定化に必須であることを実験的に示すことができた。
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