研究概要 |
平成10年度は,以下の成果をあげた. 1) 小脳プルキンエ細胞に特異的に発現する反復配列遺伝子を解析した.この遺伝子は,脳特異的に発現しており,他の組織での発現量は,肺と精巣で微かにみられる程度である.ノーザンブロットでは,0.9kb,1.8kb,2.7kb等等と0.9kbを単位としたladder状の発現パターンを示す.in situ hybridizationによって,このRNAが特に多く発現しているのは,脳の中でも,海馬の錐体細胞,小脳のプルキンエ細胞,嗅球の僧帽細胞等の早く分化した大きな神経細胞であることが明らかになった.実際に,_GDNAを分離して解析したところ,各々のユニット(単位)は,87〜100%の塩基配列が一致する類似はしているが全く同じではない配列の繰返し構造であることが明らかになった.ゲノミックDNAの解析やFISH分析によって,この遺伝子が染色体上の一箇所に150コピーほど存在していることが明らかになった.そこで我々は,この遺伝子をBsr(brain specific repeti-tive)遺伝子と命名した.驚いたことにBsr遺伝子は,ラット属にのみ存在し他の動物種にはみられないことが解った.この遺伝子は,有意なORF(open reading frame)を持たず,しかもそのRNAは核内に局在していることから何らかの蛋白質をコードしているとは,考えにくい.したがて,その機能は現時点では,全く不明であるが,これまで報告されていないユニークな遺伝子であると考えられる(印刷中). 2) 小脳LTDと遺伝子発現の関連について伊藤正男博士のグループと引き続き共同研究を行った(投稿準備中). 3) 脳神経系の進化を研究すべく大脳領野特異的な遺伝子の分離と解析の仕事を更に進めた.
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