研究課題
「大乗仏教における密教の形成」というテーマをもって、松長有慶を研究代表者として7名の高野山大学文学部のスタッフの協力のもとに、平成7・8年度の研究成果に基き、平成9年度も研究会を開催し、研究内容をさらに深めた。各研究分担者が当該年度中に発表した論文は別掲のとおりである。研究代表者は、平成9年度の研究成果として2編の論文を執筆した。その一は「『秘密集会タントラ』の呪法」と題し、ヒンドゥー社会に古くから伝わる怨敵殺害法などの原始的な呪術を、インド後期密教の代表聖典である『秘密集会タントラ』が採用し、仏教思想をもって会通する例を取り上げ、呪法の仏教化の一端を示した。他の一編は「大乗仏教における密教の形式」と題し、科研費による3カ年の研究成果の総まとめとしての意図を持つ論文である。まず仏教では解脱への行ないし所作であった悔過、瑜伽、陀羅尼を取りあげ、それらが次第に現世利益的な目的を付加し、密教教典に取り入れられた事例を検証した。また漢訳教典を翻訳年代別に調査することによって、結界法、呪詛法、印契など仏教の中に本来求めえない密教儀礼が、4世から6世紀末にかけて次第に形成していった過程が明らかになった。第3に、原始的な呪法を7世紀以降、密教教典に取り入れ、仏教的な意味づけを加えることによって、密教儀礼として形成される例を調査した。また研究分担者によって、ヒンドゥー儀礼の密教儀礼化、仏教の戒律ないり大乗仏教の思想から、中期インド密教を代表する『大日経』『金剛頂経』への展開過程などが明らかにされ、研究成果として実り多い年であった。
すべて その他
すべて 文献書誌 (4件)