研究概要 |
本研究では視覚定位行動として、眼球運動(サッケード)による定位行動と、手を用いたリーチング行動をとりあげ、これらの定位行動に対応する脳内表現を、実験心理学的方法で推定することを試みた。 1.眼球運動による定位行動:この実験では、サッケード眼球運動の行動レベルでの時空間特性と、脳内におけるそれとの一致の程度を、サッケード時に瞬間提示された視覚刺激の定位成績に関する心理物理的データから推定した。(i)単一のサッケードと(ii)2つの連続的なサッケードの場合のそれぞれについて分析することによって、サッケードの脳内表現のダイナミックな変化特性を明らかにした。本実験研究の成果の詳細は "Experimental Brain Research" (1997,Vol.113)に発表した。さらに、サッケードの脳内表現の特性に起因するサッケード時の視覚的定位の誤りが、実験室場面を離れた日常生活場面で補正されるメカニズムを明らかにするための実験を実施し、定位機構の切り替えを示唆する明確な結果が得られた。この結果に関しては、現在、学会および学術雑誌に発表のため準備中である。 2.手を用いたリーチングによる定位行動:知覚系と行動系との解離現象に焦点をあて、Titchener錯視図形およびMueller-Lyer錯視図形を標的とした、手伸ばし・把握行動の動的特性を分析したが、数少ない先行研究で報告されている知覚系と行動系の解離を示す証拠は得られなかった。それゆえこの種の定位行動においては、知覚定位系と運動定位系は同一の脳内表現を共有していると推測されるが、なお検討が必要である。
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