1.変換視野への順応に伴う第一次視覚野の大規模可塑性 左右逆転鏡を数カ月にわたって装着させたニホンザルの第一次視覚野から単一細胞活動を記録したところ、驚くべきことに、反対側の視野のみならず同側の視野にも受容野を持つ細胞が数多く発見された。これらの細胞は、刺激の方位や運動方向には全く選択性を示さなかったが、刺激光の点滅には良く応答した。この結果は、変換視野への順応の際に、視覚野の大規模な機能的再体制化が生じていることを示している。 2.小細胞系(Parvo system)の両眼立体視との関わり 固視点の左右に同心円からなる順応刺激を呈示した。一方の刺激には赤、もう一方には緑の色をつけた。さらに、刺激の一つにはプラスの視差をつけ固視点より近くに見えるようにし、残りの一つには、逆に、マイナスの視差をつけ遠くに見えるようにした。十五秒毎に刺激の左右を入れ替えた。30分間順応させた後、赤と緑のテスト刺激をそれぞれ固視点の左右に呈示し、二つの刺激が同じ奥行きに見えるために必要な視差の違いを測定した。この結果、遠くの赤と近くの緑に順応した後には、赤が緑より近くにあるように見え、逆に、近くの赤と遠くの緑に順応した後には、赤が緑より遠くにあるように知覚されることが明らかになった。この事実は、物体の色彩が、従来考えられてきたよりも強く、両眼立体視に影響を及ぼしていることを示している。 二足歩行の起源 逆転鏡装着後数週間の間、ニホンザルの自発的二足歩行が度々観察された。歩行姿勢は、ヒトが暗闇を手探りで歩く姿勢と非常に良く似ていた。視覚系が使えないときに、手の触覚を利用して周囲の障害物を検知しているのではないかと考えて、暗黒下におけるニホンザルの行動を赤外ランプとCCDカメラで観察した。5頭中2頭が、自発的な二足歩行を行っていた。さらに、移動の速度が、他の3頭の4足歩行サルと比べて、極めて早かった。3頭のサルに二足歩行の訓練を行った後、再び暗黒下で観察すると、移動速度が有為に速くなっていた。以上の結果は、2足歩行が暗闇の移動に有効であることを示している。
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