本研究の主題は、顔面表情認知の内的処理過程である。主に、先行研究より示唆されている情報処理モデルの実験的検証と、モデル構築に係わる新たな知見の抽出を目的とした。この2年間の研究期間に実施した研究の主たる内容とその成果は下記の通りである。 1.顔面表情刺激の作成:下記の実験に使用する刺激の作成を行った。まず、実人物の顔面表情写真を用意し、次いで、顔画像処理システムによりワイヤーフレームモデルとテキスチャデータを作成し、それらに基づいて刺激とする平均的な顔面表情画像を作成した。 2.顔面表情刺激のSD法評定実験:先行研究で使用したSD尺度を用いて、被験者に上記の刺激をSD法で評定させる実験を行った。因子分析の結果、先行研究で導きだされていた「快-不快」および「活動性」という伝統的な感情的意味次元の存在が改めて確認された。 3.顔面表情判断の反応時間の測定実験:上記の刺激を被験者に呈示し、各刺激に対する感情カテゴリー判断を求め、被験者の各判断内容とその判断に要した反応時間を測定する実験を行った。 4.情報処理モデルの検討:まずSD法評定実験の結果を基に、各刺激を感情的意味次元空間に位置づけた。さらに、同じ空間に、各感情カテゴリーの概念も位置づけた。次いで、各カテゴリーの概念およびプロトタイプと各刺激の間の意味空間上における距離を計算した。そこで、その距離を関数として上記の実験で得られた反応時間の分析を行った。この結果、各顔面表情刺激に対する被験者のカテゴリー判断時間は、感情カテゴリーのプロトタイプとの意味空間上における距離によって説明される可能性が示唆された。
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