研究概要 |
本研究は,3人で協力して一つの目標を達成するという課題状況における子どもの相互交渉活動や心理的変化を観察・分析し,仮説化することを目的とする.特に,3人グループで実施する協同なぞり課題の解決過程に見られる協応動作を,感覚運動レベルにおける相互交渉活動として位置づける.本年は,この協応動作の特徴を分析するために,「協応動作解析システム」を作成,また,今後の発達縦断的研究のベースラインデータを得るために年長児を対象に実験を実施した.なお,この実験では,相互交渉過程に対する個人内の影響因の一つとして「認知スタイル」に注目し,グループのメンバーの認知スタイルと課題成績との関連を併せて検討した.まず,予備調査において,個人内の認知スタイルの一つである衝動-熟慮型認知テンポを測定するために,MFFTを4〜6才児120名に実施,各被験児の認知スタイルを4タイプに分類した.本実験では、協同なぞり課題を5〜6才児60名に実施し,そこで観察された相互交渉過程をビデオに記録し,協応動作を解析システムによって測定した.協応動作に関するデータより,課題遂行中のメンバーの手続き的な役割の分化と交代,解決活動の同期性を判定する分析基準を作成した.また,ビデオに記録されたデータからは,明示的な言語的コミュニケーションのレベルでのメンバー間の役割の分化(例;リーダー役とモニター役など)を判定する基準を設定した.これらの基準による分析の結果,課題の試行を重ねるに従い,全体的な課題成績の上昇,3者間の動作的な役割分化および同期的動作の割合の増加,課題に非関連的な発話の減少が生じた.しかし,言語的レベルでの役割分化は明確には現れなかった.メンバーの認知スタイルの組み合わせと課題成績の関連は薄く,また,MFFTで測られる個人の認知スタイルは,対人的場面への関わり方のスタイルとは必ずしも一致しないことも示された.
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