本プロジェクトは、親と乳児との戯れ合い場面に焦点を当て、0歳後半から1歳半までにおける他者の心情の続みとりの発達過程を縦断に探ろうとするものである。戯れ合い、特に、驚かしたり(e.g.、「いないいないばあ」)、騙したり(e.g.、物を隠して「な-い」)、くすぐったり、脅かしたり(e.g.、「食べちゃうぞ-」)する親の遊戯的な「からかい」(playfulteasing)を、子どもたちはいつ頃からどのような文脈で楽しむのかを明らかにし、遊戯性のメタコミュニケーションの発達過程を検討した。 しかし、戯れ合いのやりとりは実験観察室での統制条件下や、家庭場面でも観察者が傍らにいる状況では起きがたい。そこで本研究では、親自身に育児記録として親子のやりとりをビデオ撮影をしてもらう「ビデオ育児日記」という手法を考案し、採用した。15組の母子が、資料を提供してくれた。この方法論の成功が本研究の大きな成果といえる。 得られた資料から戯れ合いのエピソードのプロトコールを作成した。それらから以下の結果を得た。(1)既に6か月の時点で親子のユ-モラスなやりとりが認められ、戯れ合いへの親和性(incident affinity)が発達初期から存在することが示唆された。(2)8-10か月では、いわば子どもの好みに対する親の誤信を伝えるような、親の個々の働きかけへの子どもの選択的な笑いが観察された。(3)10-12か月頃からは、親の働きかけ(例えば、くすぐり)が子どもとの葛藤を招いた場面で、突然子どもが「愛想笑い」を示したことで、その後のやりとりがし遊戯的なものに転換した事例が認められた。最後に、10か月以降では、子どもの親への遊戯的からかいの事例がいくつか認められた。以上から、親子という親しい関係の基底には「一体感The Space of “WE"」・「情動的満足感」を求めるメカニズムのあることが考察された。
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